取材現場から

2013年4月 3日 (水)

204.原子力ムラの癒着の証明

今朝の東京新聞のコラムで以下のニュースに気づいた。

元規制庁審議官が山形大教授に 原発断層調査で資料漏えい
http://www.47news.jp/CN/201303/CN2013033001001796.html
(2013/03/31 05:00 共同通信)

東京新聞の今朝の記事「原子力ムラ 厚顔の癒着」では
この山形大学の学長が旧科学技術庁出身で、
元文部科学事務次官だったと伝えている。

原発ムラの癒着問題が、文部科学省のみならず、
大学にも及んでいたことが白日の下になった。

今年2月に原子力規制委員会で
田中委員長に尋ねたときのやり取りを掲載しておきたい。

原子力規制委員会記者会見録
日時:平成 25 年 2 月 13 日(木)17:30~
場所:原子力規制委員会庁舎  記者会見室
対応:田中委員長  他
http://www.nsr.go.jp/kaiken/data/20130213sokkiroku.pdf

○記者  名雪審議官の件ですけれども、
8回、被規制者と会ったということで、 
国民の信頼を損ねたとは思われますでしょうか。
委員長、いかがですか。
名雪審議官の行為は、国民の規制庁、規制委員会に対する信頼を
損ねたとはお考えになりますでしょうか。

○田中委員長  非常に損ねたと思っていますので、
大変残念ですし、遺憾なことであったと思っています

○記者  そうしますと、指針違反、内規違反ということで
処分を受けたと思うんですけれども、
国家公務員法99条に「職員は、その官職の信用を傷つけ、
又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない

とありますので、国家公務員法違反には
ならないんでしょうかという確認です。

○森本次長  規制庁の森本でございます。
国家公務員法にも照らしまして、我々も判断いたしましたけれども、
国家公務員法上の信頼失墜行為というのは
例えば破廉恥罪のようなものでございまして、今回のようなものは、
いわゆる国家公務員法上の信頼失墜行為には当たらないということで、
内規の一番厳しい措置にさせていただいたものでございます。

○記者  組織的な重要な規制事項に関わること、
被規制者に対する利益供与に当たるような情報は、
破廉恥罪以上の国家公務員法99条違反ではないですか。

○森本次長  規制庁次長の森本です。
いわゆる国家公務員法の適用があるかどうかについて、
まさに今おっしゃった99条の適用があるかどうかについては、
厳密に規制庁で詰め
させていただきましたけれども、
これには当たらないということで、
内規で処理させていただいたものでございます

○記者  今、規制庁で詰めましたとおっしゃいましたので、
田中委員長、委員会としてはどのようにお考えか、最後に確認です。

○田中委員長  私は規制庁と一緒に相談していますから、
それでいいと思います。

~~~~~~~~~

 
「それでいいと思います」?
一つひとつの小さな「見解」で
重大なムラ体質を容認して国民の不信を深め、
癒着を強化させていく。

 

2013年2月 8日 (金)

163.浜岡原発OKの安全基準(案)

頭を抱えたくなるニュースが続きます。
 
複数テーマを、新聞記者とは違うペース、違う視点で取材していますが、
「この質問は今しておかなければならない」というものは記者ペースで取材にいきます。
 
その一つが日本列島がのっているプレートの話です。
 
原発の「地震・津波に関わる新安全設計基準」の議論がパブコメを前に
佳境に入りつつあった昨年12月、原子力規制委員長の定例会見で尋ねました。
 
なぜなら、気象庁は、東日本大震災の後、次のような発表を行っていました。
 
「国土地理院によると、この地震により生じた地殻変動によって、
 牡鹿半島の電子基準点は水平方向に東南東へ約5.3m移動し、
 垂直方向には約1.2m沈下した。」
 
「海上保安庁によると、震源のほぼ真上に位置する海底基準点は
 東南東に約24m移動約3m隆起した。」
 
以下の地図では、右下の矢印を50㎝換算として、
水平移動した距離感が描かれています。
Photoクリックで拡大
 
半端じゃありません。
 
パブコメを目前に、聴いておかなければならないと思った質問のうち、
その一つは次のように尋ねました。
 
 ○記者 最後の質問です。すみません。
 女川原発についてですが、1メートル程沈下したと聞いています。
 そうしますと、活断層が大変議論になっていますけれども、
 プレートの上に乗っているという観点から、
 日本独自の新しい基準が必要ではないかと思いますが、
 その点は御検討される予定はありますでしょうか。
 
 ○田中委員長 最初は何とおっしゃいましたか
 
 ○記者 女川原発は3.11で1m程沈下したということです。
 あの付近一体は数mの単位で地面が沈下しているわけですけれども、
 そういった観点から、日本列島独自、プレートの上に乗っている列島としての
 基準みたいなものが必要ではないかと思います。
 
 ○規制庁 地震・津波担当の管理官補佐をやっております、渡辺と申します。
 よろしくお願いいたします。
 
 今、御指摘のあった女川の地盤沈下、地殻変動などについては、
 検討チームの中でも、地殻変動に対する考慮は、
 基準の中に盛り込むべきではないかという議論がございます。
 
 これは東日本大震災の知見を踏まえて、
 原子力安全委員会で耐震指針の見直し案を作っていた時にも、
 全く同じ議論がございまして、地殻変動を考慮したような評価をすべきということも、
 指針の改定案の中には盛り込まれていまして、今回の検討チームによって、
 また見直される新しい基準の中でも、
 そういうことも考慮したような格好で検討されていくものだと考えております。
 
 ○記者 ありがとうございました。
 
すべてユーチューブで見たはずですが、
そんな議論があっただろうかと後日、議事録を見ると確かに意見は出ていました。
 
しかし、私が質問をしたその翌日です・・・。
 
 
藤原広行 独立行政法人防災科学技術研究所社会防災システム研究領域
の領域長が質問している。議事録62ページ。
 
 「例えば3.11の地震以降、プレート境界の地震については、
 すごく大きな地震もまだあるんじゃないのかとか、いろんなことも言われていると。
 こういう中で、これまでの選定がそれでよかったのか、
 あるいは今後どのように改良していけばいいのかというところなんですけども、
 明確な根拠がない中での選定の作業というふうになる中で、それの妥当性について、
 何らかの判断基準、そういったものを今後考えていかなきゃいけないんじゃないのか
 というふうな気がしております。」
 
それから丸1カ月ちょっと。
おびただしい量と質のパブコメが一挙に行われることになりました。
 
 
日本列島を載せたプレートの話はどのように盛り込まれているのか、
1月30日の時点であった記者向けの説明会で聴いて、骨子案を読んでも分かりません。
 
時間切れだといって質問を遮られたためぶら下がりで、ここか?と聞くとそうらしい。
Photo_2
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/shin_taishinkijyun/data/0008_02.pdf
 
そこでさらに尋ねました。以下は私の取材メモです。
 
「これは『設許可基準』と書いてあるが、『設基準』に読める。
 『設許可基準』なのか、『設許可基準』なのか。」
 
「『設許可基準』です」
 
「『設置許可基準』と言えば、普通の日本語では、そこに建ててよいかどうかであり
 『設計許可基準』と言えば、その建物の基準です。
 『設許可基準』と書いてあるのに『設許可基準』なのでは
 私のような馬鹿にはわかりません」と自分を落とし、
 
「たとえば、プレートの境界にある浜岡原発は、
 この基準ではどうなりますか」と食い下がると、クリアするのだと言う。
 
「え?プレートの境にあるのに、これでは浜岡原発は稼働できてしまう?」
「はい」
 
ここで書かれている「設許可基準」をクリアすればそうなると言う。
個別事業のことは私は分からないがと言いながら、そう答える。
 
また、『設置許可基準』なのか『設計許可基準』という言葉の紛らわしさは
保安院時代に変えた以下の二つで使われている言葉がごっちゃに使われているから
それは整理されると言う。
 ・発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(改訂案)(平成 24 年 3 月 22 日)
 ・発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)平成 24 年 3月 22 日)
 
果たしてパブコメにかけられた骨子ではどうなっているか。
見るとこうなっている。
Photo_3
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130206/kossi_eq.pdf
(↑http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130206.html)
 
2012年12月27日に田中委員長に記者会見で聞いて、
 田中委員長が答えられずに、
 「渡辺」という地震・津波担当の管理官補佐が答え、
 2013年1月30日会見後のぶら下がりで事務方にかみついたところは
 設置が設計と言葉だけ変わったことになる。
 
 日本列島をのせたプレートごと動くことへの基準が必要ではないかという質問に対し、
 返ってきた答えは、浜岡原発オッケーの設計基準骨子案だった。
 設計基準をクリアしたと言えば
 どんなところに建っていてもオッケーな「安全基準」なのだ
 
これが今、パブコメにかかっている。
記者が受けた説明会のようなことも、ぶら下がり取材もできないままに。
 
静岡県民のみなさん、どうしますか?
山梨県、神奈川県、愛知県のみなさん、どうしますか?
 
原発を地域に抱えた皆さん、どうしますか?
 
ちなみに田中委員長は会見で電力会社職員からの
パブコメもパブコメだと平然と答えていますから、
大量に組織パブコメが出ると思います。
 
3.11の日本列島を再掲します。
Photo_4
 
 

2013年1月16日 (水)

152.13.1兆円を一ヶ月でバラマク政府とは?

1月15日(火)朝、大臣会見に行った。政府発表が慌ただしい。
国会開会までのスケジュール感をまとめてみた。
 
以下のバラマキメニューの最後のページに金額が載っている。
 経済対策10.3兆円
 年金の2分の1を国負担 2.8兆円
 補正予算が13.1兆円とされている。
 
★昨日、1月15日にこの13.1兆円の平成24年度予算(案が通った。
これを年度内、つまり3月31日までに使い切りたいのだと閣僚達は考えている。
国会を2月ぐらいに通過するとすればたった一ヶ月で13.1兆円をつかう話である。
 
乱暴なバラマキ風が3月には日本中を吹き荒れる。
明らかに参院選対策(票田・財界へのバラマキ)であるとしか思えない。
 
★1月18日に税制改正大綱が出され、
1月28日に通常国会が始まる頃には、自民党バラマキ政権が完全復活する。
1月31日に上記の平成24年度補正予算案が提出されるとみられている。
 
★一方で、同1月15日に、
平成25年度予算の概算要求 (通常、前の年の8月末に出るものです)が
新たに自公バージョンに組み替えられて昨日閣議決定された。
ここに自公の要望が加わえてさらに膨らませるのだと言う。
(いくらに膨らむかは分からないが、与党議員達が地元回りや
 大臣室で要請を受けた事業に手厚くなると考えるのが自然)
こうして水ぶくれした本予算案となり、国会に提出されることになります。
 
★民主党政権下で自民党が「国土強靱化基本法案」という絵に描いた餅を提出したが、
総選挙を機に廃案になった。
しかし、このままではこれが「予算」という裏付けを得ることになり、
2013年でありながら、日本は急速に少子高齢人口減少する中で
国のありようだけが異様に1940年代(国家総動員法時代)から1960年代に逆戻りする。
 
閣僚を先頭に暴走する行政を止められるのは国会(国民)だけだ。
 
 
 
 
 

2012年12月31日 (月)

145.地域にこそ未来がある。

「霞ヶ関」に会議を設けても何も変わらない。
「永田町」に人を送るだけでは何も変わらない。
「地域」にこそ知恵と未来がある。
「地域」で気づき合うことが、唯一とは言わないが
未来へと通じる必要不可欠な答えである。
 
2012年11月17日、ダム問題の老舗NGOである水源開発問題全国連絡会総会での地域レポートは圧巻だった。北は北海道から南は熊本まで、その要点をまとめてみた。ダムができてしまった地域からのレポートは、現在進行形の計画に関する報告に劣らずショッキングだった。
 
ダム建設後に問題が表出してきた当別ダム(北海道)
「当別ダムは10月に完成してしまったが、完成したあとに問題が山積してきた。ダム事業はダムができただけでは終わらない。そこから導水し、蛇口に水が運ばれるまでに導水路、浄水場などの新設にさらなる支出が必要となり、水道代に跳ね返る。利水は来年から石狩市、当別町、小樽市などに供給が始まるが、水道料金が石狩市で16.7%値上げ、当別町で当面10%、2019年からはさらに値上げする。
 
札幌市では13年後、2025年まで水は一滴も使用されないが50億円も支出する。その50億円を福祉や教育に回して欲しいと要望してきたが、『水が余っているからといって水道企業団から脱退するということはできない』と言う。このダムを強力に進めたのは北海道知事、札幌市長、その他の首長だ。新たな浄水場を作ろうとしているが止めたい。その札幌市は日量4万4千トンの水が必要になると言いながら、一方で14万トンの水が余るという計算を出し、豊平川という別の支流に水をバイパスさせる「水道水源水質保全事業」という新たな目的を出してきた。これに187億円の支出が新たに追加されるが、このバイパス事業と浄水場の事業を止めたい」
(当別ダム周辺の環境を考える市民連絡会 安藤加代子さん)
 
Photo左から安藤さん、佐々木さん、市野さん
 
厚幌ダムを巡る質問経緯を見ると学識経験者は自由に物が言えない人たち(北海道)
北海道の場合、焦点となっている地域の人が動けない場合がある。
厚幌ダムについては「厚幌ダム建設事業地域代表者会議」代表の大学名誉教授に公開質問状を出したが、回答は北海道(行政)から来た。検証主体は北海道であり、「厚幌ダム建設事業地域代表者会議」には専門的な知見や科学的論拠に基づくご意見を伺っただけで「厚幌ダム建設事業地域代表者会における学識経験者の役割についての質問状」には回答できないという。しかし、私たちが質問を出したのは、まさに具体的な問題について「科学的根拠に基づいて回答」してもらいたいという意図だった。この経緯を見ると学識経験者は自由に物が言えない人たちである。
 
サンルダムについては国交省の治水のあり方有識者会議が10月にダム継続を承認。私たちはパブコメで、「ダム推進の先頭に立っている下川町は、ダムの治水効果がなく、地域振興のためにダム事業を要望しているが、問題である」と指摘しても無回答だったことを書いたら、北海道開発局が「きちんと答えた」と回答がきたので証拠を示して闘いを継続する。
 
沙流川の平取ダムで最大の問題であるアイヌ文化については、アイヌの方々が調査に駆り出される。「記憶による保全」と称して文書に残すというやり方をとる。しかし、たとえば平取ダムの予定地にある祈りの場「チノミシリ」はそれぞれの場所それぞれの人のやり方による祈りがあるものだ。同じ沙流川で1997年に完成した二風谷ダムの堆砂は16年間ですでに貯水容量の45%に達している。
(北海道自然保護協会 佐々木克之さん)
 
検証の場で治水効果を過大に評価した成瀬ダム(秋田県)
Photo_2 成瀬ダムはもともとの灌漑事業に治水目的をつけた事業。横手盆地の土地改良区で皆瀬ダムから水を供給しているが、渇水時に貯まらないという理屈で成瀬ダムが進んでいる。しかし、負担金を払うべき農家の負担を秋田県が肩代わりしている。違法であると裁判でも訴えている。
 
検討の場では成瀬ダムが一番安いとした。しかし、成瀬ダムの集水面積は1.4%に過ぎない。ところが、最大4.7%の治水効果があると過大に評価した。しかしそれは過去の洪水のうちたった一回のことで、その他の洪水では零点なんパーセントに過ぎない。
検討の場は第1回から4回まで行われており、第4回で代替案との比較評価で成瀬ダム最も有利と出た。年内中に5回目をやって最終としたいというのが見えている。住民から意見を聞くということで公聴会が行われ、「成瀬ダムをストップさせる会」から4人が反対の意見を出した。多少は賛成意見が出るのかと思えば、意見を言った9名全員が反対意見だった。
(成瀬ダム/成瀬ダムをストップさせる会 奥州光吉さん)
 
 
最上小国川ダムでは漁協が反対するも起工式(山形県)
Photo_3 山形県では先に月山ダムが完成し、地下水から水道に切り替わったが住民へのアンケートで75%がまずいと回答。水道料金は倍になった。
 
最上小国川ダムは赤倉温泉流域に計画され、事業費は今80億円だがもっと増大すると思う。東北でアユ釣り師にとって大切な川。釣り客の経済効果は22億円と計算されている。赤倉温泉は川に旅館が川にはみ出して立っている。そこでは旅館が湯量を確保するために県が作った堰があり、そこに土砂がたまりこれが洪水を引き起こしている。漁協組合員9人が反対しているが、10月29日に起工式が行われ、反対住民が抗議行動を行った。11月27日には住民訴訟が始まる。県が作った堰が問題を起こしていることを訴え続けて阻止していきたい。
(最上小国川の清流を守る会 草島進一さん)
 
 
初めてダム慎重派が入った利根川・江戸川有識者会議は開催を日延べ中(群馬県~茨城県)
Photo_5 昨年秋に八ッ場ダムが妥当という国交省の結論が出された。民主党も我々も抗議した。藤村官房長官が本体工事の条件を3つ付けた。生活再建法案の上程、利根川水系河川整備計画を策定し目標流量を策定すること、それらを踏まえての検討。これに対し市民側は2006年に作った利根川流域市民委員会を再開した。4年間の空白の間に目標流量がかさあげされていたため、批判を展開した。一方、国交省は2008年から中断していた有識者会議を再開した。新たな会議が開かれるのかと思いきや、第4回からの再開、しかもその一部である利根川・江戸川有識者会議のみの開催。抗議と意見書を連発してきたが、有識者会議にダムに懐疑的な委員を入れようと動き、大熊孝、関良基委員が入った。現在、その開催が日延べされている状態である。
(八ッ場ダムををストップさせる茨城の会 神原禮二さん)
 
導水により逆効果 藻の発生が懸念がされる霞ヶ浦導水事業(茨城県)
霞ヶ浦導水事業には那珂川漁協が抵抗している。どう考えても利水については説得力がない。現在は那珂川川から霞ヶ関に水を導して霞ヶ浦を浄化する事業に絞られている。しかし、那珂川や利根川のチッソ量が霞ヶ浦より少ないわけではない。むしろ導水によって藻が発生することが指摘されている。漁協が反対しているために、保守系も動けない。一方で放射能問題が起きている。霞ヶ浦へは栃木県の那須や茨城から流れ出してきている。今、霞ヶ浦の問題は固まっている。有識者会議を開いていない。茨城県が取水することになっている栃木県の思川開発も説得力のない状況になっているから二つを止めていきたい。
(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議 浜田信さん)
 
ラムサール条約に登録 しかし、原発事故の放射能汚染で葦焼き(よしやき)が困難になった渡瀬遊水池(栃木県)
Photo_6 運動を始めて22年になるが今年ラムサール条約登録湿地に登録された。そこに至るまでに代表世話人の高松健比古から「水源連の励ましがあった、よろしく」というメッセージがあった。渡瀬遊水池総合開発事業は12年間かけて中止にさせた。水質調査などして国交省と交渉を重ねた。8年間かけて2010年に「渡瀬遊水池湿地保全・再生基本計画」が策定された。国交省も積極的に動き、治水増強もかねているとして湿地掘削をするということで、試験掘削が始まっているが、湿地再生はたいへんな仕事であるということを感じている。そこに原発事故の放射能汚染が起きた。例年、葦焼き(よしやき)をしていたが、この2年やっていない。燃やした灰の中に放射能が濃縮されるということで心配している。失った自然を人の手で取り返そうという大実験だ。慎重に行うしかない。
(渡瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会 猿山弘子さん)
 
 水平・縦・斜めにひび割れ40箇所 貯水を止めるべき太田川ダム(静岡県)
Photo_7 平成20年から湛水が始まり、21年から運用がされたが、貯水をやめさせる運動を起こしている。ひび割れが40箇所、水平クラック、縦クラック、斜めクラックがあり、ダムの堤体が貯水湖側に傾いている。今年の8月末までに9.9mmに及んでいる。水を貯めると下流側に傾くものだが、その逆で、珍奇な現象である。県は湛水中に他の23基のダムのデータをもとに、変位5mmを注意水準10mmを警戒水準と決めていた。この事実に基づいて3月12日に太田川ダムの貯水をやめるよう県に申し入れたが、県は無視をしている。
23基のデータについて情報開示請求をしたところ、開示しないと言ってきたので、異議申し立てを行っており、11月26日に静岡県の情報公開審議会で取り上げられることになった。正常な流水の維持機能というが、この間、大量の植物プランクトンが発生し、茶褐色になっている。これに対しても、緊急申し入れをやった。コメのとぎ汁のような貯めた水が流れてくる。
(太田川水未来、ネットワーク「安全な水を子供たちに」 岡本尚さん)
 
利水容量7300万m3のうち6000万m3が流水の正常な機能の維持の設楽ダム(愛知県)
愛知県が設楽ダムの中身を県民に知ってもらう公開講座を行っている。今度の土曜日23日に第3回目の公開講座がある。今回は、豊川水系の三河湾への影響問題について開かれる。主催が愛知県であり、以前の状況とは変化がある。しかし、事業部署では推進の方針を崩していないので、愛知県に対する公金差し止め訴訟は続けている。訴訟をやる中で分かってきたが、流水の機能維持がダムの大半の容量を占めているが、ダムの大きさが最初から決まっていて逆算しているので、(必要性の)事実を踏まえていないものである。この間、力をいれて明らかにしてきた。
フルプラン改訂後5年が経過したので、中間検証が国で開かれ、審議会の座長宛に意見書を出した。各委員に配布してくれとお願いをして、座長は引き受けた。しかし、3月に開かれて以降、音沙汰なしになっている。フルプランそのものの前提が間違っていることについて意見書を出している。事業者が行っている検証作業では、堤防強化の代替案を除外してしまった。
(設楽ダムの建設中止を求める会 市野和夫さん)
 
氾濫しない別当川 山津波被害にすり替えられてできた内海ダム(香川県)
 皆さんのダム予定地には川があるでしょう。ここは、川がないんです。寒霞渓という山です。1957年に大きな水害が四国ではあった。六十何名かがなくなったが、地質が脆弱なために山津波での被害だった。別当川は氾濫しない。溝みたいな川ですから。それをすり替えたんです。県も国もそういう作文でダムを進めた。県もそのことを認めたのに、前原大臣は予算をつけた。どこから見てもとんでもないダム。鳩山首相も現地へ来て、絶対中止しますと。衆議院選挙のときに、前原も中止をするという約束をした。
(寒霞渓の自然を守る連合会 山西克明さん代理)
 
苫田ダムを作ったから海苔が黒くなると逆宣伝する国土交通省 (岡山県)
 苫田ダムの完成以来、川の水質汚染で、牡蠣やノリなど海産物への影響が出ている。水道料金も3割の値上げが2回あった。問題だらけだ。ノリが白っぽくなり黒くならないことを国交省はこれを逆に利用していて、ダムを放流するとノリが簡単に黒くなる。富栄養化しているからだ。これを利用して、ダムを作ったおかげでノリに色が付くと宣伝をしている。
(岡山県からの参加者)
 
私たち(石木ダム予定地住民)は絶対反対(長崎県)
石木ダムについては有識者会議を経て国交省の結論に付帯意見がついた。長崎県に対して、「事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する」というものだが、「希望します」と言ってもどこまでが希望か分からない。そこで長崎県に、地権者の地元の理解を得るためにどうするのかと回答期限付きで問うたが、来ないので国に問い合わせたら10日間遅れて解答書が来たが話しにならない。県知事宛に再質問をして、持っていこうと考えていたところが、県の方は話し合うことはないと断ってきた。知事宛で出しているのに、回答は県官僚から来る。おかしいじゃないか、河川課長名やダム事務所名でくるが、知事からの直接の返事はない。知事は見ているのかというと、報告はしているという。県が話し合うつもりがないので、私たちも話し合うつもりはない。2009年に出した土地収用法に基づく事業認定申請についても、国土交通省九州地方整備局(認定庁)に対し、「県は私たちの理解を得られるような努力はしていないですよ」と直接伝え、「私たちは絶対反対だから、強制収用となりますよ、私たちは住んで生活をしている。私たちを水の底に沈めるんですか」と訴えています。公聴会を行うということだがいつになるか分かっていない。2009年に県が道路の付替工事を行おうとしたとき、私たちの強い力で中止させた。今後も続けていく。
(石木ダム水没予定地住民 岩下和雄さん)
 
路木ダムの推進理由には一つも本当のことがない(熊本県)
Photo_8 路木ダムの推進理由には一つも本当のことがない。第一に右岸より左岸の方が2メートル低い。右岸から水が破堤して路木部落を襲うことはないのに、100軒浸かることになっている。第二に、熊本県知事は集落の人が汚れた沢の水を飲んでいるといってある濁り水の放水写真を示してテレビに出た。しかし、写真の濁り水はある家の井戸水の除鉄槽の沈殿汚水であり、その水を使っている家は1軒もない。そう指摘されたらインタビューを受けないとケツをまくった。
 
熊本市内に流れ込む白川に計画されている九州地方整備局の立野ダム計画は穴あきダムだが、上流には阿蘇山がある。洪水時には岩石や土砂、火山灰が流れてきて、その「穴」は埋まってしまうだろう。
 
ダム中止後の生活再建法案が提出されたが、民主党のご乱心で急遽、解散となって、廃案になってしまった。川辺川ダムは自民党が政権を取るとダムの基本計画が残っているから生き返ることがありはしないだろうかと考える。立野ダム計画は穴あきダムだが、どれだけバカげたものか見に来てください。ダムを作って良かったというところがあれば見に行きたい。
(子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会 中島康さんたち熊本県からの参加者)
 
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「景気対策」としてのダム建設へ警告すべきこと
以上が各地からの報告である。
 
それから1ヶ月以上が経ち、選挙が終わり、以前にもまして、近視眼的に叫ばれる「景気対策」の声が目立ち始めている。公共事業への財政支出が「景気対策」と呼ばれ、雇用と仕事を確保するとして歓迎される傾向は「旧」・「新」・「再旧」政権下でさほど変わっていないのではないか。「地域格差の解消」という名でのバラマキも同様である。
 
声の大きな財界における票田と相まって、改革を叫ぶ政党ですら、地方に行けば公共事業を推進する「上半身と下半身の違い」の原因となってきた。民主党が改革に踏み切れなかった背景の一つもここにある。
 
こうしたいわゆるハコモノ事業の推進には地方自治体での「起債」(つまり借金)も可能だが、その理屈は、将来世代もそのハコモノを使うから「応分の負担」をしてもらうという考えだ。しかし、人口減少が進むと「応分」にならず、不公平な負担となってしまう。このことを顧みずに目先の「景気対策」や「地域格差の解消」として公共事業を「是」「必要悪」として推進する。
 
しかし、本当に必要なのは、未来世代が「応分」に負担できるための事業である。たとえば作りすぎて将来的に維持管理ができない「ハコモノ」を壊しておくことも、現在の雇用と仕事を確保しながら、将来世代の負担を減らす、「応分の負担」につながる。時に自然再生にもつながる可能性もある。地域の知恵に耳を傾ければ、地域に合った知恵が集まり、それは霞ヶ関で一方に決められる政策決定やそのプロセスで出てくるムダを大いに省き、国全体の行革にもつながるはずである。
 
ダム建設による山、川、海への副作用は社会的に認知されている以上に大きい。「美しい日本を取り戻す」と言う人物が首相になったが、鮭の遡上で潤う森、海で卵を生んで川へ戻ってくる鰻など、経済では取り戻すことが困難な美しさや豊かさとは何か、地域での知恵と理解を取り戻して、その知恵と理解で政策決定者を変えていく年に来年がなればいいと願う。
 
 

2012年12月30日 (日)

144.コンクリートから人へはなんだったか(5 終わり)

ここからの続きです。
 
12月17日に開催された今後の治水のあり方に関する有識者会議で、鈴木雅一委員(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)が次に取り上げたのは、国土交通省東北地方整備局が進める成瀬ダム計画(秋田県)だ。B/Cへの疑問を呈するところから始まった。
 
鈴木委員「成瀬ダムのB/Cで、被害額として1年間に37億円を想定。毎年37億円の被害が50年間出るとして被害額1850億円を防げることを便益と計算している。ダムの方が安いよというのだけど、防ぐ被害の割にダムにお金がかかりすぎていやしないか。それから成瀬ダムの集水面積は流域全体の1.4%ですから、そこにどういう対応をしても、98.6%のところにはダムの効果がない。」 
 
これに三本木健治委員が口を挟む。鈴木委員の後によく発言する委員だが、その発言を逸らすことはあっても掘り下げたのを聞いたことがない。その正体は元河川局次長であるが、元職を明記せず、「明海大学名誉教授」という肩書きで通してきた。
 
中川座長がダム業界のトップの座を捨てきれなかったように、三本木委員もまた、任命者の期待を裏切り、「御用学者」の殻を破ることにも後輩河川官僚たちを新しい時代へと導くことにも失敗した。
 
次に口を開いたのは道上正䂓・鳥取大学名誉教授だ。初めてと言っていいほど、まっとうな意見が発せられた。成瀬ダムは「治水には効かない」と発言し、さらに灌漑用水分の負担費用が240億円であるのに対して、「流水の正常な維持機能」分の負担がそれよりも高いことへの疑問を呈してみせた。
 
これに、鈴木委員も「B/Cで洪水調節で540億円、流水の正常な維持機能の価値が842億円。治水経済マニュアルに沿っているのだろうが、常識的には、ダムによる『流水の正常な維持機能』が『治水』の便益の1.6倍もあるのはびっくりする話ではないか」と呼応した。
 
川はダムを造りさえしなければ流水は維持される。ダムを造って不自然に貯めるから、魚など生物のために確保するのが『流水の正常な維持機能』である。ところが成瀬ダムは、『治水』や『灌漑』目的で作るはずが、実際には『流水の正常な維持機能』に最も重きが置かれており、おかしいではないかという話である。
 
これにはカラクリがある。昔計画されたダムは水余りによって利水「目的」が減っていく。その「目的」の穴を埋めるのが『流水の正常な維持機能』なのである。だから実際には『ダム事業を維持する機能』である。
 
愛知県の設楽ダムなど他のダム事業にも共通する大きな問題であり、『流水の正常な維持機能』=『ダム事業を維持する機能』が「便益」として計算される問題が解消するだけでも、多くのダムが便益不足で中止せざるを得なくなる。
 
ところが、座長は、話を煮詰めないし、まとめない。仕方なく、鈴木委員は、この日3つめのダム事業に話を移してしまったのである。
 
鈴木委員「木屋川ダムでいささか不思議だったのは、このダムは経緯を見ると、一度、多目的ダムとして計画されてそれが治水がなくなって、多目的ダムとしては事業中止となっていた。国庫補助も一度、中止されている。それがもう一度治水ダムとして復活している。
 
それだけ必要性があるんだったら、とっととやればいいのに、完成は平成41年ということで、17年か18年後。要るんですか、要らないんですか。必要だ、必要だと書いてあるが、18年先の人口は減る。
 
言ってみれば、調査費や事務所の経費をだらだら使うっていう話。計画があるだけが大事で、10年先でも20年先でもいいってことはないですね、ということをひとこと聞きたい。」
 
辛辣な皮肉である。これに国交省がなんと答えたか?国交省「参考資料6ページのところに書いてある言葉をまとめますと、環境影響評価をへた上で、工程を見ておりますと、財政事情もある。先生のご指摘のような懸念はないと思われます」
 
これに三本木委員(元河川局次長)が何かを言うが、私の席からは聞こえない。
 
鈴木委員が再び「これは新規のダムじゃない。10メートルかさ上げをする。修理をするのに18年。新規だったらモタモタすることもあるだろうが、これは考えられない。どういうご事情があるのか。もうちょっとお話を伺いたい。」
 
これに再び、三本木委員(元河川局次長)が何かを言うが、私の席からは聞こえない。
 
これに道上委員が「整備計画をつくったんでしょ?平成20年に作って、河道改修をする。その一貫で再開発をする。そういうことでしょ。整備計画は30年をターゲットにしている。その中で再開発が位置づけられた。」と間を取り持つような発言をする。
 
これに三本木委員(元河川局次長)が「できあがるのは先・・・」と呼応。
 
もう耐えきれなかった。4つめのダム事業は徳島県の意向で中止と分かっていた。荷物をまとめて立ち上がり、会議室の出入り口へと歩き、ノブを回して振り返りざまに爆発した。この審議のありようを2009年12月3日以来、取材し続けたが、このまま沈黙し続ければ、この有り様を是認することになる。「成瀬も平取も要るわけないでしょ。いつまで馬鹿な審議やってんですか!」
 
3年間を浪費した自分が情けなかった。3年間、目撃して伝えるべきニュースがこの会議には何ひとつなかった。9人の委員がいながら、3年間で何ひとつ新しい発想を生まなかった。河川行政の何ひとつとして変わらなかった。それが3年を経て書けるニュースである。情けない、情けない。もう少しで涙が出るところだった。
 
・・・会議途中で記者席から外へと飛び出した数日後に明らかになった議事要旨で、予定通り、3ダムは推進、1ダムは県の意向のまま中止という結果が見えた。そして、この3年で、彼らが見て見ぬふりをして導入を怠った河川行政の改善策が頭の中に自然発生してきた。「コンクリートから人へ」の3年が終わったところを、新たな始まりにして、前進あるのみだ!
 
 

2012年12月29日 (土)

143.4年4ヶ月ぶりの公明党国土交通大臣に質問(3 終わり)

28日(金)の定例会見で行った三問目は、先日来、「コンクリートから人へはなんだったか」というタイトルで総括をしている「今後の治水のあり方に関する有識者会議」についてである。 
 
   @@@
 
Q:今後の治水のあり方に関する有識者会議を続行されると聞きましたが、これまで国民に対しては非公開で、記者だけが傍聴できるという形だったんですが、さきほど「国民が納得できる公共事業」とおっしゃいました。傍聴させてくれということは各地の市民団体から住民団体から声があがっていまして、民主党政権はそれを無視してきましたけれども、太田大臣としては国民に対して有識者会議を開いていくということについてはどのようにご検討されますでしょうか。
 
太田大臣:そうですね、これまで国交省として行っているということをよく私としては精査させていただいて、やるべきものやったほうがいいもの、これは数人で落ち着いた議論をした方がいいもの。いろんな形を検討させていただきたいと思います。
 
  @@@
 
民主党政権下でこの点についてはしつこく何度も質問し、取材もしたが、改善はされなかった。公明党大臣のもとでどう変わっていくだろうか。 
 
今後の治水のあり方に関する有識者会議は、こうしたロジスティクスの問題にとどまらず、諮問内容とは乖離した方向へ突き進み、多くの問題を抱えている。新政権のもとで本来どのような方向を目指すべきなのか、事実や取材をもとに、今後の川と流域住民のあり方という観点から「コンクリートから人へはなんだったか」の続きへと戻り、未来に向けた提案へとつなげていきたいと思う。(終)
 
 
 
 

142.4年4ヶ月ぶりの公明党国土交通大臣に質問(2)

28日(金)の定例会見で行った二問目は、国内外で繰り返されている天井落下によるトンネル事故についてだ。笹子トンネルと同様の事件は過去にもあり死者が出て、原因も発表されている(*)。
 
それにも関わらず、事故から10日経った12月13日の国土交通省道路局の会見で、原因の一つになりえる接着剤の製造社や成分分析について尋ねても把握しておらず、その答えは「『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会』と相談しながらこれから考える」だった。
 
原稿はすでに書き終わり、来月初旬には出る。しかし、誰が原因究明に責任を持つのか不明だったため、その後もフォローの取材を続けている。
 
たとえば、12月21日に第二回『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会』が開催されている。「接着剤分析」はようやくここで議題になった。しかし、接着剤分析の「実施体制」を見ると、「試験は委員会の確認のもと、主は国土交通省とし、国土技術政策総合研究所及び独立行政法人土木研究所が試験方法・手順の確認を行い、中日本高速道路株式会社は、必要な資料・資機材の提供や、試験実施等の協力を行う」となっている。
 
しかし、委員は、一部、国土技術政策総合研究所と独立行政法人土木研究所とイコールで、中日本高速道路株式会社は事故で捜査を受けている当事者として「事故現場」には立ち入れず、現場の「試料」は提供できない立場だという。『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会』の役割は単に「確認」するだけで、主体は国交省というなら、グルっと回ってすべてをハンドリングしているのは国交省道路局である。
 
元運輸省所管の事故なら「運輸安全委員会」という常設機関がある(とは言え、どの報告書を見ても「原因」が現象の説明で終わっており、責任を明確にしたものが見当たらない)が、元建設省所管の道路事故は、規制当局に落ち度があったり、天下り関係から同じ穴のムジナである可能性があるのに、自分で自分を調べる体制しかない・・・。
 
すべてを会見でぶつけるわけにはいかないので、質問は、他の記者の質問に関連させて、以下のように尋ねるだけにとどめた。
 
   @@@
 
Q:米国において同じような吊り天井が落ちる事故がありまして、国家運輸安全委員会、独立の第三者委員会の報告書を見ますと接着剤がふさわしくなかった。要するに長期の荷重に耐えることができないで落ちたという先例があったわけですが、日本の場合はまだ接着剤についての調査を行っていないようなのですが、老朽化と片付けずに何が原因だったのかということを責任者を明らかにするというような責任追求体制、原因究明体制が必要なのではないかと思いますが、どうお考えでしょうか。
 
太田大臣:事故原因はおっしゃったことも含めて総合的に判断をしないといけないという認識をしています。そういう意味では調査している途上でもあり、しっかり受け止めてものを考えたいと思います。今日は調査をしっかりしてくださいねと、私が考えるという段階です。
 
  @@@
 
(*)Highway Accident Report
Ceiling Collapse in the Interstate 90 Connector Tunnel
Boston, Massachusetts
July 10, 2006
National Transportation Safety Board
Big_dig
(続く)

141.4年4ヶ月ぶりの公明党国土交通大臣に質問(1)

2012年12月26日(火)自公連立政権誕生。28日(金)に新国土交通大臣の初定例会見に行った。
 
民主党政権下でまったく話題にならずに行われていた独法“改革”がある。これは、「独立行政法人」が単に「行政法人」になるという名ばかり改革になりそうなのだ。たとえば独立行政法人水資源機構。もともとは7水系でのダム開発を目的に作られた「特殊法人」だ。役割を終えた特別立法に基づいているからそれを解くべきだが、2003年、公明党大臣の下で役割を限定して「独立行政法人」として生き残った。そして7水系の開発という縛りがあるはずが、現在、海外調査業務を受発注する違法行為を行っている(*1)。それを「改革」に乗じて合法化する動きがある。一問目はこれについて聞いた。
 
     @@@@
 
Q:民主党政権下で独立行政政法人改革が進められてきたが、やり方に問題があるのではないかと指摘があります。たとえば水資源機構については扇千景大臣のときに新規のダムは作らない組織に改革されたわけですが、今回、7水系のみのダム開発をしていた組織が、独法改革の名のもとで海外事業なども受発注できるように法律案を今、いじっているという話が抜けてきた、聞こえてきたんですが、改革の名で焼け太りをしてしまうところに、どのような観点から、大臣としては取り組みをされますでしょうか。
 
太田大臣:行政改革は稲田さんが大臣になり、政府全体の方針が出ているという段階ではございません。従って大枠としての方針というものを見ながらものを考えていくべきだと思っています。見直しをするかどうかを含めて、大枠ということについて、そのもとで対応をしていくと思っています。個人的なことを申し上げますと、今から15年ぐらいまえになりますが、公共事業、今、ダムとおっしゃいましたが、細川内ダム、徳山ダムがございまして、それをやるのかやらないのか、止まっているようになりまして、そうしたことを精査してやりなさいと国会でかなり具体的な事例を挙げながら質問し、細川内ダム、徳島にございますが中止をしたという事例があります。私は公共事業は無駄なものはやらない、必要なものはやる。そうした信念をずっと持っております。行革の具体的な方向、対象についてはまだ内閣としての大方針が出ておりませんので、それを見て判断をしたいとこのように思っています。
 
     @@@@
 
公明党の国土交通大臣はこれまでにもさまざまな改革を試みている。扇千景・元大臣は、水資源機構での新規ダムは造らないと断言し、法改正を行った。冬柴鐵三・元大臣はその後に大臣になった馬淵澄夫・元大臣との国会質疑で、イライラ感を募らせながらも道路事業の費用便益分析がおかしいことを明らかにしていった。
 
しかし、官僚は民主党政権下でより顕著にそうであったように、常にその裏を行く。組織温存のために画策をする。水資源機構の場合は、国土交通官僚のトップである技監の天下り指定席を持っていることが力の源泉だ。(*1)
 
滋賀県の丹生ダムにはもう利水受益者はいないが中止手続をとらない。三重県の川上ダムでは、大阪府企業団や京都府が余剰水利権分を転用できると申し出ているのに知らぬふりをしている(*2)。栃木県では思川開発(南摩ダム)建設を理由に補助金の許可条件である水道整備計画もないのに厚生労働省から補助金を不正取得し続け、事実が明るみに出ると慌てて今になって水道事業のための計画を作るパブリックコメントを行った(*3)。これらは皆、水資源機構の事業である。
 
改革の名で焼け太りを許すかいなか、自公政権下での「独法改革」が真の改革となるか、天下り官僚の指定席確保、渡りの足場確保のための「独法“改革”」となるか、来年に向けて注目するテーマとなる。
 
参考
(続く)

2012年12月23日 (日)

139.コンクリートから人へはなんだったか(4)

(続きです)

ところが「今後の治水のあり方に関する有識者会議」はそんな議論はしない。自民党時代と変わらない「これまでの治水のあり方を継続する有識者会議」になりはてた。本来は地域の人々で知恵を絞るべき問題が、地域の宝の勝手な囲い込みとでも言うべき「霞ヶ関官僚の縦割り」の範囲でしか議論しない。「コンクリートから人へ」は、霞ヶ関利権から地域を地域の人々の手に返すことをも意味したはずが、民主党は方向性を是正することなく放置した。

それもそのはず座長である中川博次・京都大学名誉教授は今でも霞ヶ関を頂点とする河川ムラ業界のトップだったのだ。「いままでダムを推進してきた人でなければ変えることができない」という奇妙な理由による人選の結果がこれだが、いままでどころか、現在も官僚とゼネコンにかしずかれ、ダム関連事業に注がれる血税で生きながらえる組織のトップである。私自身がそう気づいたのは、うかつにも「水資源開発促進法 立法と公共事業」を書いている時だった。

一般社団法人ダム・堰施設技術協会理事会
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さて2012年12月17日の議論である。1時間以上、延々と「ご説明」が続いた後、いつものように、鈴木委員が「ではまず平取ダムからですが」と説明された順番に意見を述べ始めた。最初の質問は、ダムに貯まる土砂についてである。ダムには、100年でどれだけの土砂が貯まるかという計算する堆砂計画が立てられる。しかし、予測よりも早くダムが土砂で埋まる、その対策費が正しく見積もられていない問題は全国各地にあり、会計検査院もその費用便益計算が不適切であることを指摘した。鈴木委員の指摘は平取ダム計画におけるそのおかしさについてである。

鈴木委員「アクロバティックな計画ではないか。5ページに平取と二風谷の堆砂形状が書いてあります。堆砂計算をされたということですが、平取と二風谷でなぜこんなに違うのか。二風谷では平成15年(2003年)に土砂がたまったのでと。平取には、平成15年は入れていないんですね。」

国交省「・ ・ ・」

鈴木委員「平取ダムは二風谷ダムのようにはドサっとたまらないということなんですが、平成15年の土砂が入った時にどうなるのか。平取ダムのときはちゃんと流れる、たまらずにということなんですか?」

国交省「・ ・ ・」

鈴木委員「うまくいきますよというストーリーですが、平成15年のような土砂の出方をしたときにうまくいくのか?500立米だと思っていて4000立米がくるという考え方に変えなければならない。流域の計画論としては別のものがあるのかなと感想なんですが」

Photo_6

参考資料1-2 沙流川総合開発事業平取ダムの検証に係る検討 補足説明資料
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tisuinoarikata/dai28kai/dai28kai_ref1-2.pdf 

何度目かの問いに、国交省はついに、なんの根拠も示すことなく、「現時点では大丈夫ではないか」と答える。これに鈴木委員が「ある程度機能するというではダメだ。絶対平気だと言ってくれなくては」と珍しくはっきり言い返すと、中川座長が割って入って「土砂量の根拠がかなりちょっと無理をしているのでは。ま、なかなか、難しい。#$%~|= ・・・」と途中から私の席からは聞き取れなくなった。

中川座長の話は毎度、途中から「音」になる。話の筋が見えず単語も聞き取れない。卓上マイクの使い方が分からないのか、マイクから口を遠く離して話すので、時折、会議室の後ろ記者席から「聞こえません。マイクに口を近づけてください」と大声で要望すると、老人介護のような仕草の優しいお姉さんが後ろからハンドマイクを持たせてあげるという場面を目にすることになる。

この日、鈴木氏は諦めず、「(土砂の計算に)20個以上の係数が用いられており、流量別に係数が違うというのは、最近の言葉でいえば、レジリエンスというか堅牢性が必要ではないか」と食い下がる。

これに今度は、道上委員が割って入った。「大出水のときには土砂が流れる。これ、一旦溜まって後で流れることもあるでしょうが、濁度の問題が発生するんやないかとか。今までは上流の平取ダムはないんですけど、下流に漁業に影響がにごりであるのではないか」

ダム建設計画のずさんさの一つである堆砂計画の重要な点が指摘されたにもかかわらず、全く関係のない濁りの話に変えてしまったのである。

国交省は先に道上委員への質問に答えたあと、「係数」を「定数(じうすう)」に言い換えて、鈴木委員の問いに次のように回答した。「定数を、100年間の堆砂の再現をするということで、実測に合うような定数にするということで誤差を少ないものを採用する結果でそうなっている」

つまり、係数を使って堆砂を予測することになっているにもかかわらず、洪水ごとに違う係数を使っているのでは予測に堅牢性がないとの鈴木氏の指摘に対し、国交省の回答は実測に合わせると係数(定数)がバラバラになるというもので、つまり「定数」の意味がまったくないことが暴露されたことになる。数式を使って堆砂計画を立ていたことはまったく無意味であり、かずかすの問題が指摘されてきたのも当然である。

会計検査院が指摘したダム事業の費用便益計算の問題に大きくかかわっており、単に平取ダムの議論にとどまらず、今までのすべてのダム検証はなんだったのかという話につながる話である。ところが、この話を中川座長は問題とせず、ここでも何の差配もせずに終わるのである。

(続く)

138.コンクリートから人へはなんだったか(3)

ここここからの続きです。

さて、2012年12月17日の今後の治水のあり方に関する有識者会議である。いつもの通り2日前に開催が発表され、1日前の正午に締め切られた。最初は開催案内に議題の発表すらなかった。そのおかしさを指摘する声に気づいたのか、ようやく開催案内に議題となる事業名が載るようになった。

沙流川総合開発事業 平取(びらとり)ダム【北海道開発局】
成瀨(なるせ)ダム建設事業【東北地方整備局】
木屋川(こやがわ)ダム再開発事業【山口県】
柴川(しばかわ)生活貯水池建設事業【徳島県】

この4つのうち平取ダムは「沙流川総合開発事業」とされているように、単独の事業ではない。先に建設された二風谷ダムとセットで、1960年代に苫小牧東部開発計画(苫東)を支える遺物である。苫東に誘致されるはずだった水を大量に使う重工業をあてにして立てられた計画だったが、国交省のウェブサイトにも載っている通りに40年が過ぎて未だに空き地だらけである。破綻したのである。二風谷ダムの水は一滴も使われず、その水代は北海道が企業から徴収するはずだったが国民の税金から肩代わりされることになった(*)。

単純に考えれば、再生可能エネルギー基地にして、税金を使わず民間企業の金で地域を活性化し雇用を確保する道はあるはずだ。それが本来の「コンクリートから人へ」ではなかったのか。ところがハコモノ(コンクリート)の代表格である「苫東」や「沙流川総合開発事業」の旗を降ろすことなく、もう一つ建設しようとしていうのが平取ダムだ。頭がねじ曲がる不思議な計画だ。

先に作られた二風谷ダムは単に水余りで税金で尻ぬぐいをしただけではない。もともとアイヌの聖地「チプサンケ」を破壊して国際法違反だと裁判所に断罪されながらも、完成してしまったのでという事情判決で使うことが許された。しかし2003年8月9日の台風10号で洪水を引き起こして住民が勝訴。二風谷ダムの決壊を防ぐために放流するのに流域と川を結ぶ水門を開け放して職員が逃げてしまったので、地域に大洪水が引き起こされたのである。治水にも治水にも役に立たないのにアイヌ文化を破壊して三重に迷惑な施設になっている。

これに加えてそのわずか数キロの上流に「平取ダム建設」が必要だというのは、「平取ダム」ではなく「建設」という「仕事」や「雇用」が必要であるというだけではないか。

Photo_2
参考資料1-1 沙流川総合開発事業平取ダムの検証に係る検討 概要資料http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tisuinoarikata/dai28kai/dai28kai_ref1-1.pdf

(*)こうした一連の水余りについては『国の認可ナシでも思川開発は国からの補助金を受給 「水余り」を生む詐術としてのダム』 (週刊金曜日)をご覧ください。

(続く)

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