利根川・江戸川有識者会議は
さまざまな疑問、矛盾や不整合や浮かび上がらせながら
第11回(平成25年3月18日)でひとまず打ち切りとなった。
最大の不整合は、結局のところ、
昭和22年には1.5万m3/sで議論されたカスリーン台風の実績流量と、
貯留関数法による計算で2.2万m3/sとはじき出された架空の流量の差ではないか。
捏造した氾濫図でしか説明がつかなかった。
そのことを日本学術会議の
河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会委員長として、
その説明役としての委員を引き受けた小池俊雄東京大学教授は
最後に乖離が説明ができないではないかと大熊委員に挑まれ、
最後まで「メカニズムはある」と説明にならない説明で言い逃れた。
これを受けて、閉会前に印象的なやり取りがあったので、概略を記録しておきたい。
大熊孝委員曰く
「利根川治水計画は私の目から見て絶対に完成しないんですよ。
今の計画でいけば、あと10個くらいはダムをつくらなきゃならない。
これは、利根川だけでなくて信濃川も同じです。
石狩川も同じです。吉野川も同じです。
実現し得ない治水計画を立てている。
そういう国交省および日本の河川工学の分野というのは
私は非常に問題があるというふうに考えています。
それを修正していく中で、
妥当な治水計画が立てられるのではないか。
最後に、小池先生に聞きたいんですけれども、
現実のカスリーン台風の実績洪水に関して説明できない、
そういう流出解析の結果をもってして2,2万m3/sが妥当であると言い切るのは、
私はやはり学問上、勇み足であるというふうに思います。
水文学と河川工学は性格が違いますけれども、
水文学もやはり現実の社会との応答の中で存在しているわけであって、
あなたが今回お墨付きを与えたことによって物事は進んでいきます。
そういうことになると八ッ場ダムもできるでしょう。
こういう永遠に完成しない治水計画を抱えたままになるでしょう。
あなたは歴史的に責任を負うということになるのではないかと思います。」
宮村忠座長曰く
「大熊さんが今言われたことは、ここで言う話ではないと私は思いますので、
小池さんに答えてもらわないようにします。」
清水義彦委員曰く
「大熊先生が最後に小池先生にいったご発言は取り消していただきたい。
我々は自分らの学識に基づいて我々の判断で言っているだけで、
全ての責任を一委員に押しつけるようなのは
この会議の趣旨ではありません。そういう発言はぜひ撤回してほしい。」
打ち切りの雰囲気を悟って、傍聴席からも多くのヤジが飛んだ。
清水委員の最後の発言には「茶坊主!」とのヤジが飛んだ。
思えば、4年4ヵ月ぶりに、この会議が再開されたときに
大熊委員は、多数決で座長を新たに決めようと提案した。
形骸化した「行政のお墨付き機関」でしかなかった会議を
規約に従って運営方法を変えようとした。
そのときに、立候補したのは、大熊委員だけだったが、
宮村座長のままでよいと、推薦をしたのが清水委員だった。
宮村氏は、自分では立候補しなかったので、
清水氏が推薦しなければ、利根川の治水の歴史はこの日から
変わっていたことだろう。
歴史はある日、たった一人の決意で変わることがある。
独裁とならないためには、多くの人の参加を得て、
議論し、反論しあい、合意形成していくことが必要だ。
権力者のいいなりになるか、合意形成を目指すか、
それが今の日本に最も望まれていることではないか。
招聘されながら出席を果たせなかった冨永靖徳・お茶の水女子大名誉教授が
ある場所で、科学の基本について大切なことを次のように語ってくださった。
「整合性」:論理が矛盾してはいけない。
「再現性」:同じ事を再現できるか、再現できることを十分な根拠の基で確信できる。
「公開性」:すべてのデータが公開されて、誰でも追試をして確認ができる。
再現性には微妙な問題を含むにしても、
公開で進撃な議論ができることが特に重要だと。
これらに事柄に該当しないものは、「魔術」だと。
冨永教授のこの言葉を借りれば、八ッ場ダムだけではなく、
スーパー堤防の実現性、霞ヶ浦の問題、ウナギの生息地の回復計画、
湿地再生計画、利水計画、低水管理、全体の予算問題など
今回積み残された多くの問題に「魔術」がかかったままだ。
旧計画の呪縛は完全には解けなかった。
しかし、解くための手がかりをはっきりと残してくれた。
公開で議論することの重要性である。
もう一つ加えるなら、真実を浮かび上がらせるために
捨て身で議論する有識者の高貴な覚悟だろう。
議論を挑み続けた関良基委員には惜しみない拍手が向けられた。
伝説の内務官僚が後輩に託した
半世紀前の密室のプロセス資料も
今回、初めて野呂法夫委員により明かにされた。
この努力が次につながるのは歴史の必然だと思える。
2013年3月8日の第10回の利根川・江戸川有識者会議模様、
続きです。
関良基委員が点から面への流域治水の提言を行ったことに対して、
虫明功臣委員が
「都市河川なら利くが、利根川で『浸透』が利くようなところはほとんどない。
『田んぼダム』も福島県でもやった。
新潟県も知っているが、大洪水に効くようなものではない」と
反論したと書いた。
(関委員が持参した効いたデータには見向きもしなかった)
この反論に関良基委員がさらなる反論を行い、
その反論に今度は小池委員が反論した★が、
それは学術会議の回答にはそぐわなかった。
関委員曰く、
「虫明先生が田んぼダムの貯留機能が
大雨のときには効かないと言ったんですけれども、
これは全くそんなことはありません。ダム以上に効きます。
関東地整に求めたいですけど、利根川流域全体の水田でこれをやったとして、
新潟方式をやったときにどれだけピーク流量をカットできるか計算してください。
八ッ場ダムを確実に上回ります。」
小池委員曰く
「2つの理由で効きません。
八斗島の流量に支配する山地面積と水田面積の規模をお考えください。
どれだけの割合であるかがおわかりになると思います。
山地で降った雨が洪水を決めているんです、ほとんど★。
ですから効きません。」
関委員曰く
「確実に効きます。八ッ場ダムは面積300haです。
利根川全流域の水田面積はどのぐらいですか。
八ッ場ダムを確実に上回ります。間違いありません。
それはもちろん利根川全流域に占める面積としては
微々たるものというのはそのとおりですけれども、八ッ場ダムは点です。
水田は少なくとも20万ha、30万haという規模でありますので、
これは確実に水田は上回ります。」
売り言葉に買い言葉で、言葉が飛び交っているうちに、
メモを取っていて、「ん?」とわからなくなった。
小池委員は「山地で降った雨が洪水を決めているんです」と
断言したわりに、前のコマで書いたように、
八ッ場ダムの集水域である吾妻流域の山地の飽和雨量が
3~4倍から無限大まで経年変化したのに、
「パラメータ値の経年変化としては現れなかった」と回答(P.18)した。
普通なら「ではダムが要らなくなりました」という結論になりそうなものがならない。
関東農政局の「利根川の水田」ページを見ると、
「利根川は国土の約5%という全国一の流域面積を有しています。
その流域には、全国の2割にあたる約2,500万人の人々が生活していますが、
加えて全国の1割にあたる約28万haの水田も存在しています。」とあった。
河川整備計画は流域全体の治水の話であるにもかかわらず、
国交省からは、ダムの必要性を根拠づける目標流量の情報だけが提供され、
八ッ場ダムが不要となる議論には河川ムラ学者から理不尽に反論が及ぶ。
流域全体のことを住民参加で決めようというのが、
1997年改正河川法の趣旨だったのだが・・・。
住民を傍聴席においたまま、
有識者会議で、ごく少数の委員が良心と良識、常識に基づいて
巨大な河川ムラを相手に闘っていた。
(しつこいですが続きです)
これに対する小池委員の反論は、
次のようなものだ。いろいろそぎ落として要点を書くので
いつ出るとも知れない第10回の有識者会議議事録で確認をしていただきたい。
小池委員曰く
「特にこれまで経験していないような大洪水を、
信頼性を合わせて予測することは極めて重要な課題ですが、
世界的にも未解決の問題です。
今回の検討では、複数のモデルによる推定結果を合わせて考えることが、
経験していないような現象を考える上で重要と考えると結論づけています。
もう少し、踏み込んで申し上げますと、
大洪水と中小洪水で何が違うかというのは、
流れの形態が変わってきます。
そうすると、Pが0.6に近づいていくというのが、
私たちの物理的な理解です。」
これにも関委員は反論し、言い合いになる。
関委員「0.6じゃなくて0.3です」(実際には0.3になっているという意味だ。)
小池委員「いや、サブ流域によって違います。」
関委員 「半分の0.3です。」
ここで小池委員は意味不明な回答をする。
「そういう物理的な理解をもとに、私どもは結論づけているわけです。
これは、専門家で議論した結論でございます。」
これは専門家でも素人でも、実際のPがどう置かれていたか、
検証の過程を見れば、0.3か0.6なのかは決着がつく。
まず、日本学術会議は
「国土交通省にはその背景・経緯の記録が残っておらず」を理由に、
「現行モデル」(今はこれを旧モデルと言う)を検証せず(*1)、
「新モデル」の作り方<貯留関数法の適用の方針>(*2)を指定してつくらせた。
(*1)日本学術会議 回答のP.1下から8行目から9行目)
(*2)日本学術会議 回答のP.7
しかし、本当は記録は一部残っていた。
国土交通省関東地方整備局が八ッ場ダム住民訴訟を裁く
さいたま地方裁判所の調査嘱託に対して提出した資料がその一つだ。
クリックで拡大
出典:さいたま地検への告発状 2011年6月10日
それが後に、国会答弁に照らして虚偽だったと分かり、
2011年6月10日にさいたま地方検察庁に別途告発された。
また、この虚偽がもとで、馬淵国土交通大臣(当時)は第三者による検証を求め、
河川局長が日本学術会議へ検証を依頼した。
上記をクリックしてもらえればわかるように
旧計画の策定プロセスで捏造・操作したと疑われた定数表を見ると、
小池委員の言う0.6ではなく、関委員が指摘したように0.3に近い。
では、日本学術会議に出された新モデルでその数値はどうなったか?
大熊委員が会議が打ち切りとなった11回に提出した意見書で
(なぜか掲載されていないが)新旧モデルの定数等対照表をまとめている。
新モデルの定数Pの平均は0.474。
基準点に近いところや
八ッ場ダム予定地の吾妻川流域(*3と*4を参照)には
なぜか、関委員に言うように0.3が堅持されている。
クリックで拡大
*3 出典:2013年3月18日大熊孝委員提出「利根川・江戸川治水計画に関する意見書」
*4 日本学術会議回答の参考資料 P.102
定数P以外の定数Kを見ても新旧でバラバラだ。
当初問題になった「飽和雨量」は土壌への浸透が48ミリを越えると
流域一帯全体で飽和して川へ流れ出ることになっていたのに対し、
新モデルでは3~4倍、吾妻流域では無限大となる。
(いつか関委員が指摘していたが、それでも日本学術会議の回答 P.18の
「エ、洪水時の森林の保水力と流出モデルパラメータの経年変化」では
この3倍から無限大に変化しているにもかかわらず、
「パラメータ値の経年変化としては現れなかったものと考える」としている)
*この辺を合わせてご参考ください。総合確率法については梶原健嗣氏のブログ説明がお勧め。
新旧のモデルで飽和雨量も含めすべての「定数」が大きく変化したのに、
計画流量の結果だけが同じ。
その結果を見れば、素人だっておかしいと思う。
(続きです)
同じ主張なのに結論だけ矛盾する会話は
雨と川の水量を結びつける係数であるKとPを巡ってさらに続く。
小池委員の
「中小洪水で決めたK、Pと、大洪水で決めたK、Pは異なります。
カスリーン台風の大洪水の正確な流量がわかっておりませんので、
できるだけ大きな雨のKとPを定めて、
それを援用するのが工学的なやり方になります。」
に対して立ち上がって、猛然ととりついたのは関良基委員だった。
次のような要旨だ。
「今、小池先生は、カスリーン台風の最大計算流量が
21,100 m3/sというふうに計算されているわけですけれども、
そんな流量は出ないということを半ば認められたのと同じです。
小さい規模の洪水で定めたKとPと、
大きい洪水で定めたKとPの値は違うということを、
今、小池先生は認められた。
そこが問題であると私たちずっと言っているんです。
つまり、(中小洪水である)10,000m3/sぐらい出るものから決めたKとPを
(大洪水である計画流量の計算に)使っちゃいけないということを、
今、小池先生は認められたんです。
(しかし使ってしまう)だから、過大な値が出てきてしまう。
日本学術会議では、その点が曖昧にされたまま、
中規模洪水に当てはまったモデルが、
大規模洪水に当てはまるかどうかはわからないという書き方で、
それに対する結論を出さなかったんです。
本来検証すべきことを検証されなかったと私は考えていますので、
これは検証し直しをしなければいけないと思います。
その際に、河川工学者だけで検証してはだめです。
内輪の人間だけだとお互いにかばい合ってしまうので、
それが今、世間から批判されていることで、
それを根拠に何千億円という税金を使われるわけですから、
納税者が納得できない。
河川工学者だけでこれをやると、なれ合いの検証になってしまいます。
ですから、物理学者、あるいは確率統計の専門家を入れてください。
降雨波形の生起確率は求められないと、
小池先生はこの前おっしゃいました。
降雨波形の生起確率を求める手段は、
現在の水文学では確立されていません。
でも、学術会議の回答書に何と書いてあるかというと、
降雨波形の生起確率を求めて計算するのが総合確率法だと書いてある。
言っていることと書いてあることが違う。
『報告書を見てください。書いてあることを見ればわかります』と
言っているんですけれども、見ても全くわかりません。
書いてあることは、国民をだますような文言が並んでいるんです。」
(長くなったので続く)
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