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2014年6月 8日 (日)

347.記者会見の裏舞台

茂木経済産業大臣が会見で読みげたメモは経産官僚が4日前に原子力規制庁の官房審議官会見を見て作ったものだった件を書く。

この件を記事にするときには、書くスペースとして使うのはモッタイナイ、ことの本筋とは違う、しかし、これからジャーナリストや記者になろうと思う人には、少しは参考になるかもしれない試行錯誤を、先達として書いておく。

たくさん、良い記者が育って欲しいので。

私自身が目指す記者は、過去に起きてしまった不幸なできことが未来の人に繰り返されないよう「政策」に反映されるために書く記者だ。そのプロセスまたは結果を書き残し、社会的な合意形成(世論形成)につながるように目指す。会見を一つの手段として、情報の媒介者となり、考える機会と材料を提供しつつ、被規制者(または事業者)にとって都合の悪い隠された情報を掘り出して、政策決定者に突きつけて、政策転換へと向かう意志決定と社会の合意形成を促したい。

2014年2月26日に福島第一原発に足を踏み入れたことをきっかけで、取材を重ねる中で、その敷地から離れた「変電所」の脆弱性がまったく問題にされず、3.11後の規制強化につながっていないことが問題だとに気づくようになった。問題の核心は変電所(経済産業省)と外部電源の確保(原子力規制委員会)の二つが重なる所管を巡り、相互に責任転嫁が行われている(=彼らとしてはそれぞれ自分の責任の範囲を全うしていると考えている)ことだ。

2014年6月3日、経済産業省の大臣会見室に、「経済産業大臣として変電所の耐震化、強化ということが必要なのではないか」と大臣見解を尋ねにいった。官僚は、法令の壁に閉じこもり、できるだけ、仕事を少なくしようとする習性がある。二つの所管が重なる時、必ずといってよいほど、両方の官庁が自分の職務負担を少なく考えるので、「現実」はその透き間に落ちて、無政府地帯に陥ることがある。

そんな時に残された手段は、常識で判断ができる政治家の見解を引き出すことである。官僚に取材をしていてらちがあかないと思ったら、政治家に見解を聞きに行く。

この日、質問の前提として、液状化していたことを経産省は知らないと言い始めると、経産大臣はそこに反応し、「あなたの決めつけていることではないですか。経済産業省としては、お聞きをいたしております」と質問を遮ろうとする。

私にしてみれば、「大臣が」この時点で変電所の液状化を知っていたのは当然だった。なぜなら、会見室に入る10分前に、経済産業省の広報担当官に「液状化の問題を聞きます」と聞かれるままに通告しておいたからだ。「大臣は知らないと思うので、教えておいてください」とハッキリと頼んだのだ。会見時間は少ないので、時短のためである。

この件については、当事者である東電の会見担当者も、規制者である原子力規制庁も知らないことはそれぞれの会見で確かめてきたので、経産官僚が知らなくても、ましてや経産大臣が知らなくても、全く不思議はないと思っていた。

大臣が知っているか知らないかが重要なのではなく、どこまで知っているのかの感触を得た上で、こちらからさらに情報を提供し、その上で、どのような見解を持つかを得ることがこの日の私の目標である。

その意味で大臣が「ストーリー」を私が私の頭の中で組み立てている、と指摘したのは、その通りなのだが、その「ストーリー」を聞いた上で、その「ストーリー」が事実かどうかをあくまで大臣自身で確かめ、規制に生かしてくれることがこちらの意図である。

そう考えた上で、「即答は不要」とも言って投げかけたのだが、残念ながら大臣は一記者の言うことなど信用していないとでも言うかのように、大臣は、全幅の信頼をもとに、官僚が用意したメモに目を落としてそれを読み上げた。

以後、情報提供となるキーワードを投げても、「ちゃんとお答えをしました」と、それ以上は受け取ってもらえた感触がない。

大臣の読み上げたメモは次の通りである。
============
 東日本大震災の発災以前から変電所の設置に当たりましては、変電機などの電気の供給に直接影響する主要な設備を設置する場合においては、地質調査を行い、液状化の可能性を評価し、そして必要な場合は液状化対策を実施した上で設置をすることといたしております。
 今お話がありました新福島変電所においては、東日本大震災により液状化は発生いたしましたが、電気の供給に直接影響する設備において、液状化被害は生じておらず、これは当時の原子力安全・保安院の電力安全小委員会電気設備地震対策ワーキンググループにおいても、液状化による電気設備への被害がなかったことが確認されていると承知をいたしております
=====================

さて、今後どうすべきか。そう考えていると、会見の午後、このメモを用意した担当課長から電話がかかってきた。本質的なことをやり取りしたあと、「ところで、大臣が読まれたメモはあの10分で用意されたんですか?」と率直に聞いてみた。

すると率直に、「10分じゃ無理ですよ。5月30日に規制庁で質問されていましたね。それで作っておいたんです。」

課長が率直にそう教えてくれたのには理由がある。そう認めなければ、課長自身がどう液状化について知り得たのかを答えることができないのだ。

担当課長は3.11のときには別の部署にいたから、液状化の件を知り得ない。私は次のように詰め将棋を行った。

「事故を検証するワーキンググループの報告書には「液状化による被害はない」と書かれている。火力発電所は、液状化による直接的被害の有無は別として「液状化」があったことの「事実」が書かれ、それによって何が起きたかどうかは別として「液状化の被害」と書かれている。しかし、原発だけ、「液状化の事実」の有無すら書かれていない。でも、液状化について報告を受けていたというなら、報告書にはなくても記録が残っているはずですから、その記録を開示請求しますよ」

すると「文書はない。口頭だったかもしれない」という。
そこで、果たして経済産業省が液状化をどう知り得たのかが不明となった。

そこで、「ところで、大臣が読まれたメモはあの10分で用意されたんですか?」と聞く。すると、なんと、私自身が5月30日に規制庁で聞いた質問がもとだったと担当課長は答えたのだ。

東電は「知らない」、規制庁は「聞いていない」その会見録を目にした経産省が念のために作っておいた想定メモが、会見前の10分間で広報担当から電気安全課に回っていった通告により、引き出されて、大臣の手に渡っていったのだった。

所管の壁はともかくも「規制者」たる政府の一員である大臣が、このとき初めて、自分の口で「変電所が液状化した」事実を認めたことになる。

霞ヶ関にとっては、行政文書に書かれていないことは、問題が存在しないこととイコールである。これを行政文書化させることが、このことを知り得た取材者としてなすべきことなのだと今、考えている。

政策への反映はその次だ。

=====================
http://www.meti.go.jp/speeches/data_ed/ed140603j.html
茂木経済産業大臣の閣議後記者会見の概要から抜粋

平成26年6月3日(火) 9:06~9:16   於:記者会見室

新福島変電所
Q: 福島第一原発につながる変電所の件でお尋ねしたいのですが、先ほど広報の方がお伝えいただいたかもしれませんが、新福島変電所という変電所で液状化が起きて、45カ所の損傷を受けて、変電設備に起きていたのですが、そのことを資源エネルギー庁の地震対策ワーキンググループに対しては、東京電力が報告をしておりません。ですので、経済産業省としてはそのことの事実に気づいておりませんで。
A: それはあなたの決めつけていることではないですか。経済産業省としては、お聞きをいたしております。

Q: それは先ほどお伝えしたのです。
原子力規制庁は経済産業省の所管であるということで。
A: 規制庁は経済産業省の所管ではありません。

Q: 原子力規制庁にこの原発からつながる変電所について聞いたところ、変電所の所管はあくまで電気事業法に基づく経済産業省の。
A: 変電所についてはそうですけれども、規制庁の所管は経済産業省ではない。

Q: もちろん知っています。変電所の所管は経済産業省です。ところが。
A: 正確に申し上げると、電力の安定供給のために必要な設備に関する所管は我々であります。

Q: ところが、事故を受けて、経済産業省は安定供給のための送電施設について、ワーキンググループで検討しております。そこで東京電力は変電所について液状化被害なしということで、規制の評価につながっておりません。実際のところ、原子力規制庁の方で行っている再稼動に向けての審査で(まさの加筆:川内原発では)、115回やっていますが、もちろん変電所については何の審査も行っていません。
 例えば、九州電力に聞いたところ、変電所についての耐震化は500ガルまでということでやっているのですが、新福島変電所の場合、1,069ガルの加速度、震度、揺れを経て、45カ所損傷したということであります。
 ですので、質問です。
 経済産業大臣として変電所の耐震化、強化ということが必要なのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

A: 東日本大震災の発災以前から変電所の設置に当たりましては、変電機などの電気の供給に直接影響する主要な設備を設置する場合においては、地質調査を行い、液状化の可能性を評価し、そして必要な場合は液状化対策を実施した上で設置をすることといたしております。
 今お話がありました新福島変電所においては、東日本大震災により液状化は発生いたしましたが、電気の供給に直接影響する設備において、液状化被害は生じておらず、これは当時の原子力安全・保安院の電力安全小委員会電気設備地震対策ワーキンググループにおいても、液状化による電気設備への被害がなかったことが確認されていると承知をいたしております

Q: 大臣、それは東京電力が1,000本の杭を打って締め固めをしたり、水抜きの井戸を掘って対策をしていて、たまたま重要なところはそれで助かったということを担当者は言っているのです。この事実も1,000本の杭を打っていた。それは中越沖地震を受けての対策を密かにやっていたのです。それを公表していないんですよ、一切。取材でようやくわかったわけです。
 それを踏まえていないので、もう一度言います。川内原発では、電気施設の技術基準、それから建築基準法、そして変電所等における電気設備の耐震設計指針で確保していますが、従来どおりのものであって、今回の地震を受けては一切評価をしていないのです。それは九州電力のせいではなくて、経済産業省がこの事態に気づいていないからだと思うのですが、即答は不要ですので。
A: 今のお話について、私は前段と後段でお話ししました。その前段できちんとお答えしています。よく聞いてください。あなたはあなたの考えでストーリーを組み立てていますけれども、今2段にわたって私はお話ししました。その前段で、今あなたが言っていることについて、しっかりお答えしています。

Q: 一言たりとも1,000本の杭を打っていたとか、取水井戸を掘っていたことは。
A: あなたの頭の中で、いろいろなストーリーを組み立てているのだと思うのですけれども、あなたの質問を聞いて私もお答えしました。その答えの前段の中で、あなたが今言われていることについて、きちんとお答えしています。

Q: でも、これは全国の原発の安全にかかわることです。ですから、東京電力の答えと同じことを大臣はおっしゃっているのです。つまり液状化というのは、被害にリンクしていないから報告しなかったのだと言っています。
A: そうは言っていません。ちゃんとお答えしています。あなたは自分のストーリーを組み立てて、自分のストーリーどおりにお答えいただけるかどうかということで期待していますから、私がきちんとお答えをしても、その部分は全く聞かずに自分の質問に入っているわけで、もう一回自分で私の答えを起こしてみてください。

Q: 大臣のお答えは規制強化は必要ないということですね。
A: そうは言っていません。ちゃんとお答えをしました。
 私の答えを言ってみてください。

Q: 大臣が前段でおっしゃったのは、液状化というものによっての被害は起きていない。
A: それは後段の話です。前段の話を言ってみてください。

Q: 前段の話はこれまでの対策をとってきていて、既にそれを十全に果たしてきているということをおっしゃいました。
A: 違います。ちゃんと起こしてください。

================

この前後で、1.東電→2.原子力規制庁審議官→3.東電→4.経産大臣★→5.原子力規制委員長→6.東電→7.経産大臣→8.東電と 会見での詰め将棋はまだ続いている。上記は★の部分である。

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コメント

蔵本さま この件は山本太郎参議院議員が質問主意書で事実を行政文書として確定させるための質問を行っています。東電は2週間に及ぶ会見における追及で、最初は会見担当者すら知らない、後に、あたかも変電所の液状化を政府に報告していたやに印象付けていきましたが、結局、政府からの答弁により、原子力規制委員会にも経済産業省にも報告していなかったことがわかりました。なお、どこが液状化したのかは、先日、東電担当者から聴き取った図を週刊金曜日に書きましたが、山本議員の答弁で政府は、このような聴き取りの必要はないと後ろ向きな答弁に終始しています。

6/4田中委員長記者会見でのご質問も視聴させていただきました。国民へ情報提供と問題の所在を周知していただき感謝しています。質疑は一方的に打ち切られ、今後は別の場でということになったようですね。
 変電所や鉄塔は少なくとも耐震Sクラスの設定が必要だと考えますが、規制側は着手せず放置。現行の規制基準は外部電源と原発本体の本格的な安全性強化には手を付けず、外部・周辺に安全付属設備を追加するもので、システムを複雑化しただけだと思います。このため、今後は一段と自然災害とヒュマンエラーのミックスで重大事故が起こるのではないかと危惧しています。

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