362.平成の大本営発表。これじゃ戦争は繰り返される
筋ぐらい通せないのか。
「高村正彦」なる一議員は、
かつての「防衛大臣」であり「外務大臣」であるかもしれないが、
政府の一員ではない。たかが「自民党」の副総裁でしかない。
なぜ、その「一議員の私案」を「公明党」と協議して、
それが「閣議決定」という運びになるのか。
なぜ、マスコミは、そのおかしさに「せめて筋を通せ」と突っ込めないのか。
少し振り返る。
安倍首相は、「外交」「防衛」「安全保障」という本来は政府が責任を持つことについて
単なる「私的諮問機関」を立ち上げて議論させた。
本来、税金を使っているので「私的」ではありえない。しかし、
外交や防衛はもちろん法律の専門家ですらない~たとえばJR東海会長など~
お友達ばかりを集めた実に「私的」な懇談会で議論をさせた。
中身を見ると「素人か」「床屋談義か」と思うほどのズサンな議論をしている。
厳選するまでもない、目についた一つの例を挙げる。P.14にこうある。
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②事例2:米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援
―― 米国も外部からの侵害に無傷ではあり得ない。例えば、2001年の米国同時多発テロ事件では、民間航空機がハイジャックされ、米国の経済、軍事を象徴する建物に相次いで突入する自爆テロが行われ、日本人を含む約三千人の犠牲者が出た11。仮に米国が弾道ミサイルによる奇襲といった武力攻撃を受け・・・、
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「自爆テロ」という言葉が出てくるのは、あとにも先にもこの一言である。
この「自爆テロ」からいきなり「弾道ミサイルによる奇襲」に飛躍する。
しかも、それを「米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援」の事例として語る。
同じページにこうもある。
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―― 我が国を攻撃しようと考える国は、米国が日米安全保障条約上の義務に基づき反撃する可能性が高いと考えるからこそ思いとどまる面が大きい。
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え?そうなんですか?
それに「我が国を攻撃しようと考える国」ってどこですかと聞きたくなる。
こんな議論をまがりなりにも一国の首相の私的諮問機関の報告として残すのは、
後世に対して恥ずかしい。
こんな稚拙なお友達のお喋りすら1年3カ月かけた。
そして、さすがに、このお友達の稚拙な意見を
2014年5月15日に出てきたばかりの報告書をポイと蹴飛ばしたかと思うと、
今後、いきなり出てきたのが、なぜか、
自民党の同僚である「副総裁」高村正彦の「私案」である。
それは、憲法では国民が永久に放棄した武力を、
摩訶不思議な「要件」なる言葉にまぶして、
それを「集団的自衛権」と呼ぶものだった。
国を縛るはずの「憲法」になぜ、一議員が「要件」をつけただけで
180度変えることができるのか不明だが、
自民党と選挙同盟の立場にある「公明党」と協議を始め、
しかも、クルクルと目まぐるしく1カ月の間、変わり続け、
●●日までに「閣議決定」する、
それがダメで過ぎてしまうとまた●●日までにと煽る。
マスコミはなぜか、その「戦況」を刻々と煽り気味に国民に伝えている。
そのような「大本営発表」を垂れ流すことが
国民を泥沼の惨禍へと導いた歴史がありながら
なぜ、また同じミスを犯すのか。
この意思決定に至るまでの道筋を以下に示す。
安倍晋三首相
↓
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会有識者
岩間陽子 政策研究大学院大学教授
岡崎久彦 特定非営利活動法人岡崎研究所所長・理事長
葛西敬之 東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長
北岡伸一 国際大学学長・政策研究大学院大学教授
坂元一哉 大阪大学大学院教授
佐瀬昌盛 防衛大学校名誉教授
佐藤謙 公益財団法人世界平和研究所理事長(元防衛事務次官)
田中明彦 独立行政法人国際協力機構理事長
中西寛 京都大学大学院教授
西修 駒澤大学名誉教授
西元徹也 公益社団法人隊友会会長(元統合幕僚会議議長)
細谷雄一 慶應義
↓
高村正彦 衆議院議員 私案?
↓
公明党協議??
↓
閣議決定???
↓
憲法「解釈」の変更??? は?
ちなみに、こういうことのために作ったはずの国家安全保障会議ですら、
当然ながら、「高村私案」なんて議論していない。
意思決定のラインがグチャグチャである。
何よりもおかしいのは、根幹にあるべき手続をまったく経ていないことだ。
憲法第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
この手続はどこかへ行ってしまい、摩訶不思議なプロセスで、
「武力行使」が可能な国にしようとしている人が「首相」を名乗っている。
なぜ、今、政府・与党が行っていることは憲法違反だ、
現・首相は狂っている、と、マスコミは
「知性」とは言わない、「常識」で国民に伝えることができないのか。
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コメント
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話のポイントはここだと思う。
「国を縛るはずの「憲法」になぜ、一議員が「要件」をつけただけで180度変えることができるのか不明だが、・・・」
この“180度変える”
法解釈の基本は、法の趣旨→必要性→要件による歯止め(相当性)で、法の趣旨が没却されないこと。要件をつけて、例外を認めるとしても、その例外には歯止めで必要であって、それが要件である。法の趣旨が損なわれないようにする歯止め。つまり、どこまでも法の趣旨に縛られるのが、法解釈である。180度意味を変えるのは、法の趣旨からはみ出しており、それは解釈ではない。そのような場合に要求されるのは、法の改廃である(法とは、条文1条でも法と言う)。
そして、憲法の場合、法の改廃は憲法改正手続き(96条)。
「この手続はどこかへ行ってしまい、摩訶不思議なプロセスで、「武力行使」が可能な国にしようとしている人が「首相」を名乗っている」が、首相は99条により、憲法尊重義務を課せられている。たかが一議員にすぎない、自民党副総裁も、その議員たる資格において99条の制限に服する。
憲法99条
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
そして、この99条の意味は重い。
法は、条文の位置が重要である。なぜなら、その位置づけに法の体系が現れているからだ。
99条は、第10章最高法規(97~99条)を構成する条文である。つまり、ここにこそ、立憲主義による制限規範という憲法の根本が現れている。
投稿: kenji KAJIWARA | 2014年6月28日 (土) 02時50分