345.角哲也教授への呼びかけ
国際大ダム会議という国際的な「河川ムラ」がある。これには日本版の「日本大ダム会議」もあり、コンサル、ゼネコン、電力会社、および国交省から水源地環境センターへ渡りの最中の元官僚(渡邉和足・元河川局長)や、もう一つの天下り機関である水資源機構の理事までが集っている。
突然そんなことを書いたのは、「穴あきダム」を推進する場に必ず呼ばれる京都大学防災研究所の角哲也教授の、山形県最上町での講演のパワーポイント画像にその名前が出てきて、懐かしいとさえ思ったからだ。1990年代にその存在を知ったが、当然のようにまだあったのだ。
角哲也教授講演 http://youtu.be/uc7P7N9R-Jo (11:40~)
角氏は、穴あきダムをなぜ推奨するのかを語ったあと、その名前が出てくるところで、「100年間あたり数週間程度、貯留するだけの構造物は、環境順応型でいいんではないかと国際的にも言われている」(11:40~)と述べた。
しかし、そのもとの英語は環境に「いい」とまでは言っておらず、角氏の論文を辿ると、Lemperierさんがそう言っているだけで、しかも環境の観点から許容できる(acceptableな)根拠は不在。国際大ダム会議での議論ならさもありなんだ。
続けて角氏はダムの大きさ比較に入り(12:00~)、さらりと、「アメリカでは非常に大きなものがありますし、日本の場合は比較的ヨーロッパに近い。いわゆる山岳地ですので、ダムの高さは50から100メートルぐらい」と述べた。
グラフを一瞬見せられて、耳で聞いただけでは、ヨーロッパの穴あきダムも50から100メートルぐらいである印象を得てしまうが、角氏の論文で、オーストリアにある穴あきダムは5.8~23.3メートルと日本の穴あきダムの4分の1から半分ぐらいの規模でしかないことがわかる。(この 2~3頁目に出てきます。)
しかし、一方で、洪水が頻発しているEU諸国ではオーストリアを含め、「可能な限り、本来、河川の土地である氾濫原を河川に戻すことが大切である。つまり洪水対策が河川復元を推し進める構造」(*)となっていることなどの情報はまったく提供していない。
少々不愉快な思いになり、一連の動画を送ってくれた草島進一山形県議や「最上小国川の真の治水を求めて」のシンポジウムの参加者に「学者として許せない」と感想を送ったところ、同じ京都大学の防災研究所に席を置いていた今本博健教授からも、講演 と質疑を聞いた感想が共有された。
「時間制限なしの徹底公開討論をしようよ」との呼びかけが含まれ、共感するので、以下、それを転載をさせていただくことにする。
○まず、角氏の人物像について紹介しておきたい。
角氏は京都大学大学院修士課程を修了して建設省に採用され、土木研究所での勤務のあと、京都大学防災研究所に移り、現在、同研究所の教授である。
海外の事例を紹介していたが、現地調査はいずれも国交省の外郭団体の経費によるものである。発言内容はつねに国交省の主張を代弁しており、典型的な御用学者といわれている。
○穴あきダムが推奨される理由について
角氏は、穴あきダムが推奨される理由として、これまで国交省が主張してきた利点をそのまま述べているが、いずれも確認されたものではなく、願望に過ぎないといえる。
穴あきダムが採用されているのはその利点によるのではない。多目的ダムで計画されたものが、利水が脱落したがために治水専用となり、環境についての懸念を払拭しようとして、確たる根拠もなく採用したにすぎない。最上小国川ダムも当初は多目的ダムとして計画されている。「どうしてもダムをつくりたい」が事業者の本音であり、御用学者がそれを支えている。
本音は、貯水型ダムをつくりたいのであり、角氏の「流水型ダムにもゲート設置が有利な場合が多い」との発言は、このことと軌を一にしている。ダムさえできてしまえば、「いつでも貯水型に変えることができる」が事業者の本音ではないか。
○アユへの影響について
角氏も「アユの成育には新鮮な苔が必要で、土砂が流動することが重要」としながら、最上小国川ダムが90m3/sを超える洪水をすべて調節し、最上小国川のダイナミズムを破壊することを無視している。ダムができれば環境が破壊されるとの懸念は払しょくされず、たとえ影響が小さいとしても、ダムがあることがアユ釣り人を遠ざけることになる恐れがある。風評被害であっても、ダムが原因であれば補償する必要があるが、事業者にその覚悟はあるのだろうか。
○穴あきダムの閉塞問題について
角氏は「土砂は貯水池の上流端に堆積するのでダムには到達しない」といっているが、間違いである。
土石流が発生した場合、巨礫は最先端を流動する。土石流の発生は洪水のピーク時とは限らない。これまでの調査では、流量がピークに達する前に土石流が発生することのほうが多い。もし土石流が発生すれば、ダムより100m上流の砂防ダムを軽々と乗越え、ダムに到達する。
「巨礫は撤去すればいい」ともいっているが、豪雨のなかでは不可能である。裁判資料の被告側準備書面によれば、河道には巨礫が存在するとされているので、土石流が発生すれば、それに乗って巨礫は流下し、ダムに到達する可能性はある。角氏は現場を見ていないのではないか。
○反対派との討議について
個人的には、角氏に「時間制限なしの徹底公開討論をしようよ」と呼びかけているが、反応がない。実質的に事業者が主催する会しか念頭にないようであるが、私は、「いつでも」、「どこでも」、「誰が主催しても」、喜んで応じる。
ぜひやりたいものである。
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