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2014年5月13日 (火)

332.初めての「協議会」と「緑」の防潮堤の課題

環境女子☆のための環境法勉強会第3回海岸法の勉強会の続きです。
 
片山議員の話に続いて、行われた清野聡子・九州大学准教授の話。
 
生態工学の観点から、海岸の生物だけでなく、人々の暮らしにも目配りをしながらのフィールドワークをしてきた研究者ならではの緻密かつしなやかな論点の提示となった。
 
ザックリと乱暴に一言でまとめると、砂丘や干潟など自然の地形を活用し、総合的に、環境と防御は一体であるという考え方がなされるべきだが、そうできないのが行政と学会に共通する病である。その結果、環境と防御を要素分解して「環境配慮型護岸」などができあがってしまう。国際的にそうであるように、環境と防御を一体で利用するインテグレートした考え方が重要だ。
 
Photo_3
(海岸、河川、農地、道路とバラバラな所管ごとに構造物が作られてしまうありがちな海岸の姿を、インテグレート(統合)する必要があるとの指摘が多くの専門家から指摘されていると語る清野さん。参議院議員会館、地下会議室。クリックで拡大)
 
今回の海岸法改正で初めてはいった「協議会」のあり方をはじめ、片山議員が指摘したこととも共通する論点を中心に、もう少し箇条書きしておくと次のようなことになる。  
 
(海岸法改正内容はこちら
 
○海岸法は、環境保全や住民参加の考え方が入った1997年の河川法改正をきっかけに連動する形でその2年後に初めて「環境保全」「公衆の海岸」といった考え方が取り入れられて改正された。  
 
○海岸法は海岸4部局(国土交通省の河川、港湾、農林水産省の漁港と農地)が同床異夢的に所管、海の法律の整備は陸域よりも遅れ、水産基本法ができたのは21世紀。海岸だ、漁港だ、港湾だとバラバラな所管だったものを、議員立法でまとめた海洋基本法が成立したのは2007年だった。ただし、震災復興もそうだが、目的や理念はよくても、その政策が実務まで降りていくと、関係省庁の調整が図られず、うまくいかない面がある。
 
○たとえば、海岸保全区域と言えば、春分の日の干潮を基準に水際から50メートルの海陸の帯状のところを対象としている。これまでの海岸構造物がその帯状に並んでいる。お金がでるのがその範囲という膠着した行政が行われる。
 
○しかし海岸保全区域を必要ならば、50メートルを超えて指定できる規定もある。もっと弾力的に砂丘などもっと奥まで含めるなど工夫をしてきた現場もある。戦後の経済成長期に、遠州灘で、沖合3キロまで開発させないとした例もある。法律をうまく活用すれば、人工的な防災施設だけでなく、干潟や砂丘といった自然の地形を保全しながら防災にも役立てることができるはずだ。
 
○今回、改正によって、協議会「海岸管理者、国の関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長は、海岸保全施設とその近接地に存する海水の侵入による被害を軽減する効用を有する施設の一体的な整備その他海岸の保全に関し必要な措置について協議を行うための協議会を組織することができるものとすること」という一文が入る。注意しなければならないのは、偏った考え方の専門家だけを集めて結論を出してしまうことがないようにすることだ。
 
 ・きちんと公開された場で議論されること
 ・立場ある人たちだけでない地域住民の参加
 
はとても大事だ。(後に女性の参加、議論を封殺しないことの重要性も語っておられた。)
 
清野さんの話の後、質問や提案が多数出た。現時点では前のコマにも載せたホワイトボードを参考にしていただくこととして・・・。片山議員からは防潮堤は環境アセスの対象になっていないことについての指摘もあった。
 
泉ケンタ議員からは、「国交省となんどかやり取りをしている中で」気になっている点が共有された。
 
○協議会が、省庁間(管理者同士)の調整のための協議に陥らないようにしなければならない。有識者は入れられることなっているようだが、そこでどれだけ住民が参加できるかが問題であること。
 
○「緑の防潮堤」といっても、混同と善意の解釈がある。世間一般として描くイメージが違っていてキケン。国交省の話を聞いていると、コンクリートの上に土を盛って陸側を守るための「緑の防潮堤」に過ぎない。コンクリートに穴もあけないという(ので根を張ることもできない)問題が明らかになっている。
 
Photo_4
清野さんが示した国交省の「緑の防潮堤」の断面図を使って、この「緑」の防潮堤と世間のイメージのズレの危険性をフロアから指摘する泉議員。
 
この緑の防潮堤については清野さんも、質疑の中で次のように指摘していた。
 
「緑の防潮堤は技術的にも塾度が低いまま法律(案)に入ったもので、もうちょっときちんと考えてからの方がよかったかもしれません。コンクリートづけだけではない構造物をという提案があった中で、コンクリートづけの構造物との折衷のレベルのものでこのような断面図となった。
 
技術的には木の生え方とか盛り土したときにどうなるか、根がでないとか課題はさまざま生態学者からも指摘されている。3年以内に生えなければならないなど、木も期限を守れと言われる、木の立場を考えてあげて欲しいんですが(笑)、かなり拙速なコンセプトで来ている。まだまだ検討の余地があり、いろいろな批判もでているので、早いうちに共有しながら、現場適用を考えることが大切だ。 
 
生態学、植生、造園、緑化など多くの関係学会がある。学会同士のコンセプトも少しづつ違うので、理念のすりあわせがこれから必要になる。5月25日に福岡で日本造園学会があってそこで緑の防潮堤のお話をする。東北と九州では雨量も気候も違い、木の生え方も違う。今までも技術基準にローカリズムを入れて欲しいとの声がある。地域ごとのガイドラインが必要かもしれない。
 
それを担保するための地元住民の参加や環境情報の持ち寄り、カスタマイズが必要で、環境アセスができない調査費用がでないといった中で、協議会の参加だけではなく、観察自体がさまざまな意味を持つ。」
 
中身の濃い議論がさまざま行われたので、タイムリーに報告しきれないが、行政と学会の縦割り問題に加え、住民がどう参加するための力と意欲を培っていくか、政策決定と執行に大きく関わる多くの社会問題に共通する課題が、海岸法にも凝縮している。
 
脳みそを刺激される学習会だった。
 

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