321.社会的な動物であるヒトへの影響
1970年に米国で誕生して以来、世界に広がった制度に環境アセスメントがある。日本でそれが法律として成立したのは1997年で27年遅れだった。
その間、産業界の反対で、1972年に「閣議了解」、1984年に「閣議アセス」という中途半端な形で始まった。20年余を隔てて法律になったものの、骨格は閣議アセスと言われるものとさほど変わっていなかった。大げさに言えば、考え方は1970年代にとどまったまま、進化をあまり遂げずに、それが現在も踏襲されている。
一方で、環境アセスメント制度を盛り込んだ米国の国家環境政策法は、当初、環境アセスメント自体は数ページの報告書をイメージしていたと言われるほどで、全体像のごく一部だ。この法律が機能する様々な規制法が編み込まれ、手続法ではありながら組み合わせにより、結果的に規制力を持ちえる。そして、この法律が求めていることが遵守されているかを監視する機関が内外にある。大統領府には環境諮問委員会(CEQ)があり、個々の連邦機関には総括監察官がおかれ、国家環境政策法の目指すところが守られているかどうかを見張っている。環境アセスメントはいわば住民などステークホルダー(利害関係者)を直接、巻き込んだ監視メカニズムの一つに過ぎない。
その上でさらに司法がある。結果として、1970年に制度が成立してから現在までに重なった判決を反映した運用規則をCEQが作って、進化してきた。それでもまだ不十分だとの批判は米国国内でもある。
こうした制度研究は日本で行われてこなかったわけではないが、比喩的に言えば、大学の研究室や重たく分厚い本の中に閉じ込められたまま、社会にはうまく説明されてきてこなかった。また研究されていたとしても、ある研究者はCEQがどう機能しているのか、ある研究者は影響を回避、低減、代償させるためのメカニズムを、ある研究者は参加の仕組みを、ある研究者は司法制度の仕組みをと、パーツパーツで細分化されていた。
当然、そのパーツのまま日本に持ってきても組み込めない。しかし、組み込むことが可能な機能までが抜け落ち、紹介も研究も十分になされなかったものもある。
昨日はその辺の前提をすっ飛ばして、「スーパー堤防」という具体的な事業から、何が抜けているのかを実感してもらいたいと考えた。とくに強調したかったのが、いままでさほど研究された形跡もない「社会影響評価」だ。人間が生物として受ける影響(大気や水質や騒音など)だけではなく、人が人として、社会的な動物として受ける影響を見極めて、回避する仕組みだ。米国では国家環境政策法成立以来、20年余をかけて深化させてきた。
日本では、環境アセスとは、自然環境のことだけを見る制度だと考えている人が大半だ。「社会的な動物であるヒトへの影響」への認識を少しづつジワジワと広めていければ、と思う。いまさら遅いとは言え、変化を求めていかなければ、1970年代感覚の日本を未来世代にまで手渡すことになってしまう。
環境女子会☆勉強会では、後半は少人数に分かれて、参加者同士がざっくばらんなお話をする時間を設けている。そこで感想や意見を言い合い、最後に全体でそれをかいつまんで共有する。
次のような感想や素朴な疑問が共有してくれた。
・開発を行って行く上で、人口が減少していく中、30年度、50年後にそれが持続できるのかという視点を入れた持続可能性アセスメントが必要なのではないか。
私も同席させてもらったグループには、若手環境省職員が「個人的な感想ですが」と断った上で、環境アセスは環境だけを切り取った制度だが、合意形成を含めた制度であるべきなのではないかと日頃感じながら仕事をしていますと率直に述べてくれた。
試行錯誤中の環境女子会☆勉強会の第二回「日米の環境アセスを比較しよう スーパー堤防事業を事例に考える」の「おさらい編」(振り返り編)を金曜日19:00~行います。いらっしゃれなかったヒト、歓迎します。
金曜日にもいらっしゃれないヒトは、是非、こんな制度が日本のアセスからは抜けているのだと、一覧してみてください。以下は昨日のプレゼン資料や質疑で述べたことのソースです。
■米国の社会影響評価 原則とガイドライン
Principles and guidelines for social impact assessment in the USA
■社会影響評価のための国際原則
International Principles For Social Impact Assessment
こんな制度が抜けているために、スーパー堤防予定地で辛い思いをしながら住み続け、その制度のおかしさを訴え続けている世帯があります。その支援者であり代弁者でもある稲宮須美さんが、スーパー堤防とはどのような事業か、どのような懸念が解消されないまま進められているか、お話を聞くこともできます。ブログでも継続的に発信を続けておられるので、こちらでもごらん下さい。
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