200.旧計画の呪縛を解く(28)矛盾⑨伝説の内務官僚が遺した矛盾とメッセージ
利根川・江戸川有識者会議は
さまざまな疑問、矛盾や不整合や浮かび上がらせながら
第11回(平成25年3月18日)でひとまず打ち切りとなった。
最大の不整合は、結局のところ、
昭和22年には1.5万m3/sで議論されたカスリーン台風の実績流量と、
貯留関数法による計算で2.2万m3/sとはじき出された架空の流量の差ではないか。
捏造した氾濫図でしか説明がつかなかった。
そのことを日本学術会議の
河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会委員長として、
その説明役としての委員を引き受けた小池俊雄東京大学教授は
最後に乖離が説明ができないではないかと大熊委員に挑まれ、
最後まで「メカニズムはある」と説明にならない説明で言い逃れた。
これを受けて、閉会前に印象的なやり取りがあったので、概略を記録しておきたい。
大熊孝委員曰く
「利根川治水計画は私の目から見て絶対に完成しないんですよ。
今の計画でいけば、あと10個くらいはダムをつくらなきゃならない。
これは、利根川だけでなくて信濃川も同じです。
石狩川も同じです。吉野川も同じです。
実現し得ない治水計画を立てている。
そういう国交省および日本の河川工学の分野というのは
私は非常に問題があるというふうに考えています。
それを修正していく中で、
妥当な治水計画が立てられるのではないか。
最後に、小池先生に聞きたいんですけれども、
現実のカスリーン台風の実績洪水に関して説明できない、
そういう流出解析の結果をもってして2,2万m3/sが妥当であると言い切るのは、
私はやはり学問上、勇み足であるというふうに思います。
水文学と河川工学は性格が違いますけれども、
水文学もやはり現実の社会との応答の中で存在しているわけであって、
あなたが今回お墨付きを与えたことによって物事は進んでいきます。
そういうことになると八ッ場ダムもできるでしょう。
こういう永遠に完成しない治水計画を抱えたままになるでしょう。
あなたは歴史的に責任を負うということになるのではないかと思います。」
宮村忠座長曰く
「大熊さんが今言われたことは、ここで言う話ではないと私は思いますので、
小池さんに答えてもらわないようにします。」
清水義彦委員曰く
「大熊先生が最後に小池先生にいったご発言は取り消していただきたい。
我々は自分らの学識に基づいて我々の判断で言っているだけで、
全ての責任を一委員に押しつけるようなのは
この会議の趣旨ではありません。そういう発言はぜひ撤回してほしい。」
打ち切りの雰囲気を悟って、傍聴席からも多くのヤジが飛んだ。
清水委員の最後の発言には「茶坊主!」とのヤジが飛んだ。
思えば、4年4ヵ月ぶりに、この会議が再開されたときに
大熊委員は、多数決で座長を新たに決めようと提案した。
形骸化した「行政のお墨付き機関」でしかなかった会議を
規約に従って運営方法を変えようとした。
そのときに、立候補したのは、大熊委員だけだったが、
宮村座長のままでよいと、推薦をしたのが清水委員だった。
宮村氏は、自分では立候補しなかったので、
清水氏が推薦しなければ、利根川の治水の歴史はこの日から
変わっていたことだろう。
歴史はある日、たった一人の決意で変わることがある。
独裁とならないためには、多くの人の参加を得て、
議論し、反論しあい、合意形成していくことが必要だ。
権力者のいいなりになるか、合意形成を目指すか、
それが今の日本に最も望まれていることではないか。
招聘されながら出席を果たせなかった冨永靖徳・お茶の水女子大名誉教授が
ある場所で、科学の基本について大切なことを次のように語ってくださった。
「整合性」:論理が矛盾してはいけない。
「再現性」:同じ事を再現できるか、再現できることを十分な根拠の基で確信できる。
「公開性」:すべてのデータが公開されて、誰でも追試をして確認ができる。
再現性には微妙な問題を含むにしても、
公開で進撃な議論ができることが特に重要だと。
これらに事柄に該当しないものは、「魔術」だと。
冨永教授のこの言葉を借りれば、八ッ場ダムだけではなく、
スーパー堤防の実現性、霞ヶ浦の問題、ウナギの生息地の回復計画、
湿地再生計画、利水計画、低水管理、全体の予算問題など
今回積み残された多くの問題に「魔術」がかかったままだ。
旧計画の呪縛は完全には解けなかった。
しかし、解くための手がかりをはっきりと残してくれた。
公開で議論することの重要性である。
もう一つ加えるなら、真実を浮かび上がらせるために
捨て身で議論する有識者の高貴な覚悟だろう。
議論を挑み続けた関良基委員には惜しみない拍手が向けられた。
伝説の内務官僚が後輩に託した
半世紀前の密室のプロセス資料も
今回、初めて野呂法夫委員により明かにされた。
この努力が次につながるのは歴史の必然だと思える。
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