136.コンクリートから人へはなんだったか(2)
続きです。
会議室の外には机によって三重のバリケードが廊下に張り巡らされるようになった。長崎県が進める「石木ダム」の水没予定地住民が審議を聞かせて欲しい、自分たちの住んでいる土地がなぜ沈むのか、その審議を聞きたいと会議室前で懇願して硬直状態となり、会議が延期されてからだ。
その延期された会議が開催されることになってから究極の異常が始まった。
会議室前にあった受付が、そこからは数十メートル離れたエレベータホールに移された。エレベータホールから会議室へと向かう両脇の廊下には100人を超える河川官僚が動員されて、傍聴希望者の行く手を阻むようになっていた。いや、それ以前に傍聴を求める住民を国交省に入る入り口や1階で特定して、エレベータにすら乗せない。しかたなく階段を使って会議室へ向かおうとする傍聴希望者と争うようにして11階まで駆け上がり、踊り場から会議室へ向かう廊下も何重もの官僚の壁で塞いだ。
こんな中でも「取材者」は会議室へ向かう特権が与えられた。ただし、私の場合は、前回、傍聴者を閉め出して会議を始めようとする扉の前に立っていたため、傍聴希望者を「扇動した」との濡れ衣をかぶせ、今度やったら傍聴を認めないとの警告文を名指しで座長から受け取った上でである。
この日、こんな環境で審議することの異常さを指摘し、反省をすべきだという意見を述べたのは、これまた鈴木東大教授のみで、他の委員は、まるで何事もなかったかのように振る舞った。耳を澄ますと、遠くから「私たちは絶対にゆるしませーん」という石木ダム住民の絶叫であろう声がかすかに聞こえた。これは私が最後列の外に近い席に座っていたからで、会議室奥の委員たちには届かなかっただろう。
以後、この遠い受付、バリケード、会議室に施錠、委員を官僚がガードして入退室という馬鹿げた環境で、人の命を扱う「治水」の話をすることになった。
自分が住んでいるところが脅かされ、土地収用法に基づいて強制退去させられる可能性のある切羽詰まった石木ダム予定地住民を除いては、捨て身でバリケードを突破しようなどという切実さで、高い運賃と時間を使って、官僚のご説明をわざわざ聞きに来たいと思うも者はそうはいない。来たとしても「ご説明」と数回の問題指摘、そして唐突な「まとめ」しか聞けないのである。
傍聴希望者は押し寄せてこないことに気づかないのか、彼らは自分たちが作った恐怖心で、それ以後も、遠い受付、机バリケード、会議室に施錠、委員を官僚がガードして入退室というスタイルが定番となった。しかも、記者のぶら下がり取材を妨害するために委員が退室して数分の間、記者は軟禁状態になる。
2012年12月17日の議題となった4つのダムのうち、平取(びらとり)ダム、成瀬(なるせ)ダムには反対の声が強い。傍聴希望者が押し寄せることを警戒してか、いつもよりもバリケードが増えた。遠い受付、机バリケード、会議室に施錠、委員を官僚がガードして入退室の定番に、人間バリケードが復活した。
この奇妙きてれつな会議に委員でありながらほとんど一度も出てきていない委員が、『会議の政治学』で有名な森田朗・学習院大学法学部教授だ。この異常な会議を自らサンプリングしようという探究心はないらしいのである。
(続く)
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