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2012年12月30日 (日)

144.コンクリートから人へはなんだったか(5 終わり)

ここからの続きです。
 
12月17日に開催された今後の治水のあり方に関する有識者会議で、鈴木雅一委員(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)が次に取り上げたのは、国土交通省東北地方整備局が進める成瀬ダム計画(秋田県)だ。B/Cへの疑問を呈するところから始まった。
 
鈴木委員「成瀬ダムのB/Cで、被害額として1年間に37億円を想定。毎年37億円の被害が50年間出るとして被害額1850億円を防げることを便益と計算している。ダムの方が安いよというのだけど、防ぐ被害の割にダムにお金がかかりすぎていやしないか。それから成瀬ダムの集水面積は流域全体の1.4%ですから、そこにどういう対応をしても、98.6%のところにはダムの効果がない。」 
 
これに三本木健治委員が口を挟む。鈴木委員の後によく発言する委員だが、その発言を逸らすことはあっても掘り下げたのを聞いたことがない。その正体は元河川局次長であるが、元職を明記せず、「明海大学名誉教授」という肩書きで通してきた。
 
中川座長がダム業界のトップの座を捨てきれなかったように、三本木委員もまた、任命者の期待を裏切り、「御用学者」の殻を破ることにも後輩河川官僚たちを新しい時代へと導くことにも失敗した。
 
次に口を開いたのは道上正䂓・鳥取大学名誉教授だ。初めてと言っていいほど、まっとうな意見が発せられた。成瀬ダムは「治水には効かない」と発言し、さらに灌漑用水分の負担費用が240億円であるのに対して、「流水の正常な維持機能」分の負担がそれよりも高いことへの疑問を呈してみせた。
 
これに、鈴木委員も「B/Cで洪水調節で540億円、流水の正常な維持機能の価値が842億円。治水経済マニュアルに沿っているのだろうが、常識的には、ダムによる『流水の正常な維持機能』が『治水』の便益の1.6倍もあるのはびっくりする話ではないか」と呼応した。
 
川はダムを造りさえしなければ流水は維持される。ダムを造って不自然に貯めるから、魚など生物のために確保するのが『流水の正常な維持機能』である。ところが成瀬ダムは、『治水』や『灌漑』目的で作るはずが、実際には『流水の正常な維持機能』に最も重きが置かれており、おかしいではないかという話である。
 
これにはカラクリがある。昔計画されたダムは水余りによって利水「目的」が減っていく。その「目的」の穴を埋めるのが『流水の正常な維持機能』なのである。だから実際には『ダム事業を維持する機能』である。
 
愛知県の設楽ダムなど他のダム事業にも共通する大きな問題であり、『流水の正常な維持機能』=『ダム事業を維持する機能』が「便益」として計算される問題が解消するだけでも、多くのダムが便益不足で中止せざるを得なくなる。
 
ところが、座長は、話を煮詰めないし、まとめない。仕方なく、鈴木委員は、この日3つめのダム事業に話を移してしまったのである。
 
鈴木委員「木屋川ダムでいささか不思議だったのは、このダムは経緯を見ると、一度、多目的ダムとして計画されてそれが治水がなくなって、多目的ダムとしては事業中止となっていた。国庫補助も一度、中止されている。それがもう一度治水ダムとして復活している。
 
それだけ必要性があるんだったら、とっととやればいいのに、完成は平成41年ということで、17年か18年後。要るんですか、要らないんですか。必要だ、必要だと書いてあるが、18年先の人口は減る。
 
言ってみれば、調査費や事務所の経費をだらだら使うっていう話。計画があるだけが大事で、10年先でも20年先でもいいってことはないですね、ということをひとこと聞きたい。」
 
辛辣な皮肉である。これに国交省がなんと答えたか?国交省「参考資料6ページのところに書いてある言葉をまとめますと、環境影響評価をへた上で、工程を見ておりますと、財政事情もある。先生のご指摘のような懸念はないと思われます」
 
これに三本木委員(元河川局次長)が何かを言うが、私の席からは聞こえない。
 
鈴木委員が再び「これは新規のダムじゃない。10メートルかさ上げをする。修理をするのに18年。新規だったらモタモタすることもあるだろうが、これは考えられない。どういうご事情があるのか。もうちょっとお話を伺いたい。」
 
これに再び、三本木委員(元河川局次長)が何かを言うが、私の席からは聞こえない。
 
これに道上委員が「整備計画をつくったんでしょ?平成20年に作って、河道改修をする。その一貫で再開発をする。そういうことでしょ。整備計画は30年をターゲットにしている。その中で再開発が位置づけられた。」と間を取り持つような発言をする。
 
これに三本木委員(元河川局次長)が「できあがるのは先・・・」と呼応。
 
もう耐えきれなかった。4つめのダム事業は徳島県の意向で中止と分かっていた。荷物をまとめて立ち上がり、会議室の出入り口へと歩き、ノブを回して振り返りざまに爆発した。この審議のありようを2009年12月3日以来、取材し続けたが、このまま沈黙し続ければ、この有り様を是認することになる。「成瀬も平取も要るわけないでしょ。いつまで馬鹿な審議やってんですか!」
 
3年間を浪費した自分が情けなかった。3年間、目撃して伝えるべきニュースがこの会議には何ひとつなかった。9人の委員がいながら、3年間で何ひとつ新しい発想を生まなかった。河川行政の何ひとつとして変わらなかった。それが3年を経て書けるニュースである。情けない、情けない。もう少しで涙が出るところだった。
 
・・・会議途中で記者席から外へと飛び出した数日後に明らかになった議事要旨で、予定通り、3ダムは推進、1ダムは県の意向のまま中止という結果が見えた。そして、この3年で、彼らが見て見ぬふりをして導入を怠った河川行政の改善策が頭の中に自然発生してきた。「コンクリートから人へ」の3年が終わったところを、新たな始まりにして、前進あるのみだ!
 
 

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