135.コンクリートから人へはなんだったか(1)
2012年12月17日、いつものごとく名前も肩書きも不明の河川官僚の「ご説明」という名の「ダム継続妥当(案)方針発表」が終った。第28回の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」配布資料は重ねると高さ40センチ程度。平取(びらとり)ダム、成瀬(なるせ)ダム、木屋川(こやがわ)ダム再開発、柴川生活貯水池、4つのダムの説明は1時間以上続いた。
すると今度は、これもいつものごとく、座長の中川博次・京都大学名誉教授が委員に丸投げをする。この会議体が、自らが決定した基準に基づいてダム事業が検証されたかどうかを精査をするつもりがあれば、中川座長は一つひとつ区切って説明をさせて、質疑を行うだろう。ところが毎度、全部を一気に「ご説明」させ、それが終わると、座長は委員に対して議論の順番すらも差配しない。「ではご意見を」という音に近い声を発して丸投げをする。すると、「・・・」と二、三拍の沈黙の後に、きまって鈴木雅一東京大学教授が、仕方がない、とでも言う切り出し方で「じゃ、○○ダムからいきますが」と「ご説明」があった順番に具体的な鋭い質問を発していく。
するとその質問に対する河川官僚の答えを聞く前に、他の委員が関係のない質問や意見を差し挟む。これに官僚は直ちに反応し、後から差し挟まれた質問や意見に答えてから、鈴木委員の質問に対する回答をする。そしてそれがまったく説明になっていなくても次へ行く。こんな調子でなんの合意形成もないのはもちろん、論理的なまとめもない。最後は意見がさまざまなダムに対して乱れ飛んで、忽然と、座長が「当会議が示しました考え方に沿ったものである。それが私のきょうのまとめでございます。ひとつよろしくお願いいたします」とダム事業の継続お墨付きが決まる。時に鈴木委員がそこで異論を差し挟むことがなかったわけではない。ただしそれは無視される。そして数日後に国土交通省がダム事業継続を決定する。「会議」の意味をなしていない。
委員たちはこのやり方に慣れ、会議室の中にも外にも「異常」があることをまるで気づかないふりをしている。会議室の中の最大の異常は、傍聴者が一人もないことである。川の流域に暮らす人の命にかかわる治水のあり方を議論するはずの場だが、ついに「傍聴」を認めなかったのだ。
唯一、途中から方針が変わったのは「取材者」への対応で、そのために私をはじめ「取材者」は取材が可能である。まるで、「取材をさせてやっている」とでもいう姿勢を顕示したいかのように、審議テーブルの最前列から50人以上の国土交通官僚軍団の後ろ、最後列の一列に記者席がある。「ご説明」役を演じる幹部席の椅子の座席は頭までかぶるほどに高く、傍聴席の課長クラスからヒラ官僚の椅子はゆったりと安定感のある背もたれ椅子。そして記者席はパイプ椅子である。そのパイプ椅子の上にはメディア名がA4用紙に記されておいてある。私の席は大概、最後列の一番左奥で、委員たちの官僚たちにガードされながらの入退室に使われる通路からも一番遠くに指定されている。
A4用紙に最初の頃は「まさのあつこ」と書かれていたが、最近では「フリーランス」と書かれている。がしかし、2日前に会議開催の案内がネット上に掲載され、1日前の昼までに申し込みをしなければ、たとえ当日、足を運んでも頑として入れない。実質の非公開と同じである。受付まで来て、そう言われてすごすごと帰って行く記者を目にしたのは一度や二度ではない。
一度、私も申し込みそびれて受付に行き、事前に申し込んでいないからダメだと言われ、そんな馬鹿な話はないと抗議したら、「冒頭のカメラ撮りまでなら」と許され、そのまま空いている席で傍聴を続けようとしたら退出を迫られたことがある。「おとなしく座っているからいいじゃないですか」と無視をして座り続けたら四,五人の河川官僚が取り囲んで壁を作って、「ご退出ください」と迫ってきた。無視をしたらどうなるのだろうかとそのまま座っていたら、そのまま四,五人の官僚が30分ほど私の前に立ちはだかり審議の様子が見えないように妨害しながら小声で「ご退出ください」と言い続けた。四〇分ぐらいしてようやくその妨害の人壁が二,三人になって十分に一度ぐらいの「ご退出ください」になり、やがて一人の官僚となり、最後は誰もいなくなった。2009年から2012年の「コンクリートから人へ」の河川行政とはこのようなものだった。
(続く)
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