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2012年12月21日 (金)

137.八ッ場ダム控訴審(東京都)の結審

一つの時代が終わったかのように八ッ場ダム住民訴訟の控訴審が結審した。治水、利水、地すべりの危険性、そして環境の観点から弁護団が最後の弁論を展開した後、それを高橋利明弁護士がまとめた。それをさらにかいつまむと以下の通りである。 
 
【利水の必要性について】東京都の水需要はここ20年間で減少の一途をたどっている。1992年に一日最大配水量は617万m3だったのが、年々減少し、2012年には469万m3に落ちこんだ。東京都が抱える水源は618万m3で、多摩地区で使われている地下水を含めれば687m3もある。余剰分は水需要の46%だ。ところが、東京都は35年以上前のデータを使い、水需要が伸びると言うが、この20年間の減少を見ればあり得ない。
 
【治水の必要性について】利根川の治水計画は、昭和22年のカスリーン台風洪水を前提に昭和55年にできている。そのとき八斗島(やったじま)という基準となる地点で流れる「基本高水流量」をそれまでの1万7000m3から2万2000m3に引き上げた。引き上げの理由は、上流で氾濫したであろう洪水が河道改修で氾濫せずに流れるようになると、基準点を流れる量が増える、都市化によって土壌に染みこむより川に流れ込む量が増えたとか様々だった。しかし、弁護士たちが現場を歩き、調べを進めていくと、上流で氾濫しないための「河道改修」は行われた事実もなければ計画も存在しなかった。また、上流で氾濫したという根拠も、高崎市役所が建つ高台まで浸水するようなあり得ない「洪水、山に上る」話だった。
 
【地すべりリスクへの対応】住民の移転先である代替地やダム予定地の湖岸における地すべりの危険性は以前から指摘されてきたが、国交省は3カ所しか対策しないと述べてきた。ところが2010年10月に開始された八ッ場ダム建設事業の検証でそれを見直し、対策工事は16カ所で必要であることになった。以前の調査や対策工事がいかにずさんだったかを物語り、現在のリスク評価も信用できるわけがない。
 
締めくくりに高橋弁護士はこう付け加えた。結審にあたり裁判所に望むことがある。我々が掘り起こし提起した事実を正視して欲しい。一審の判決で裁判官は、八ッ場ダムが必要になる条件は、1)上流で河道改修がなされた場合であること、2)それが容易に実現しない事実を認めた。そして、3)上流で河道改修がなされない場合は、ダム建設が不要であることも理解した上で、4)「河道整備がされる可能性が皆無ではない」という理由で住民敗訴にした。しかし、これでは裁判官が治水計画を立ててしまったようなものだ。だから事実に基づいた判断をして欲しい。
 
その結びのことばが終わると、裁判官は、冒頭で地すべりに関する新たな証言の機会を申請されたが、これを拒否して「審理を終結する」と述べ、判決は平成25年3月29日1時半からだと告げて終わった。あっけないものである。 
 
起立、礼をして、法廷の扉が開けられた。原告団と弁護団と証人を務めた専門家、そして数名の記者は、終結にあたっての一つの区切りとして集うことになった。参議院議員会館に向かう途中、行政訴訟に明るい研究者に話を伺うと、行政計画を「行政の裁量」ではなく「処分」と見なすようになれば行政訴訟が変わるだろうと言う。そうしたケースは出てきはじめているがどうなるだろう。裁判官もこの国を変える一人である。最終陳述を行った弁護士の一人は、その最後で何が裁判所に期待されているかを論じ、陳述書には書かれていなかった異例の一言を加えて結んだ。「私は裁判所に期待していない。しかし事実を踏まえた判決がかけるものなら、やってみろ!」
 
裁判官の「はい分かりました」という声が聞こえたという人もいるが、私はあっけにとられて耳を澄ましそびれてしまった。「期待していない」と述べた弁護士の裏側の気持ちを読んで、この国の司法のあり方を変えて欲しいものである。
 
V_2
「東京都の水需要にV字回復はない」高橋利明弁護士提出陳述「12月21日の弁論のまとめ」より
 
 
 

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