77.利根川・江戸川有識者会議(3)低水管理
「洪水」と関係に深い「基本高水」問題は、
かなりの人の知るところとなった。しかし、
「渇水」と関係の深い「低水」問題は全くと言っていいほど知られていない。
前のコマで整理した利根川・江戸川有識者会議で出された論点のうち、
岡本雅美・元日本大学教授が専門である「低水管理」がそれだ。
岡本氏は機会あるごとに、「低水」について触れるが、スルーされている。
国交省が2011年11月4日に開催した八ツ場ダムの検証会議のときもそうだ。
この方は、言いたいことを全部盛り込んで、
いろいろな人(行政や学者)や事柄(高水)に配慮しながら話すために
本当に重要なことが人に伝わらない癖がある。
しかし、議事録の中から余計なことの大半を削ぎ落としてつなげると、
「低水」については、岡本氏は以下のようなことを言っている。
赤字を読んでください。紫字は高水の話です。
○どのレベルに対忚するのかというのが必ず問題になるわけです。
○利水に関しても、10年に1回は水利権の流量がとれないことがあるけれども、
これはやむを得ない。10年のうち9年を担保するようなものをつくろうと。
○それを正確に統計学的に統計学者が納得するようなことを言おうと思ったら、
尐なくともその10倍のデータが必要なわけです。ところが、
そんなことは実際にはできないことなので、じゃあどうしているか。
○ 公共事業というのはまず必要性がなきゃいけない。(略)
その合理的な根拠がなきゃいけない。
合理的の中には、例えば毎秒1万7,000トンというのを
ダムの効果をはじくときにどうやって合理性を担保するかというと、
虫明先生以下お歴々がご出席ですが、
こういう学識経験者が現代の学術、科学技術では
大体そういう計算方法とか流出のモデルを使うことが最も妥当であろう
というものをお受けして、それを河川構造令、
あるいは技術指針という格好で固定して、
それでもって合理性があると認定せざるを得ない(略)。
○ 例えば(略)10年の渇水をどう評定していくか(略)
学識経験者の基本的には現在の科学技術の示すところに従ってやっていく。
したがって、それは当然進歩する場合もあるわけで(略)、
裏から言うと、河川部局の方々に裁量権があるのは、
1つはどのレベルの対忚をつけていくか。(略)
例えば我々は虫明さんや宮村さんと同じで年を食っているので、
長年利根川とつき合っていますと、当初は100年高水と言っていたのが、
あるときから利根川は重要だから200年に対忚しようという声が聞かれました。
○ 利水に関してついでに申し上げますと、
利水は全国どこでもやるときには10年渇水年、
10年に9年は担保できるということでやってきているんですが、
こと利根川に関しては、とてもダムの容量が足りない、
渇水補給の手段がないということで、
実は河川整備計画では20年ないし30年の間は5年に1回パンクする危険を
想定目標としているわけです。
○そして、どの程度のレベルで考えるかということに関しては
ある程度の裁量ができますが、これはもっと総合的な裁量で、
私も清水委員と同様に、利根川は被害物件等重要度が全然違うんだから、
もっと安全率を上げるべきだろうと思いますが
現在の行政の能力では200年どころか100年も無理で、
50年に下げざるを得ないという算術ができている。
抜粋は以上ですが、
「高水」と「低水」は、河川官僚の裁量に合わせた便宜的な評価に過ぎないこと、
より高い目標が好ましいが、現実性がないこと、を語っています。
しかし、それでも高い目標を目指すすべきか、現実味のある目標とすべきかの
大事な結論を自分では示さない(中立性を保とうとする)ために、
誰にとってもつかみ所のない話に聞こえてしまう。整理して言えば、
行政が結論を決めればその結論に合わせた根拠を考えられる。
基本高水も低水もその程度のものでしかない、ということだ。
慣れた話の聞き手であれば、語り手を促し議論を深めるのでしょうが、
宮村氏の場合は、以下のように(議事録のP.20)切り捨ててしまった。
○宮村座長
ありがとうございました。大分岡本節で、もう発言はないだろうと思います。
では、ほかの方にお願いしましょう。
では、岡本氏の言う「低水(利水、渇水)管理」とはどのようなものか、
だいぶ前になりますが、じっくりと取材をさせてもらったことがあるので、
次のコマで解説をしておきたいと思います。
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