73.原子力規制委員会
2012月9月19日、原子力規制委員会(http://www.nsr.go.jp/)が
発足したことを伝えるニュースは出た。私自身は
今すぐこの件を紙媒体で書く予定がないので取材メモを公表しておく。
(メディア・スクラムができるテーマは極力取材しない主義だが、
原発事故に関しては、問われるべき質問が問われない場面があり、
最初が肝心なので、本来やるべき仕事をそっちのけで、自己嫌悪しながら行ってきた。)
会議そのものは合議体のあり方や緊急時の対応など用意されたシナリオに沿って
シャンシャンと進み、発足式は原子力規制委員各自から抱負が語られ、想定内だった。
委員としての資質が本当の意味で現れ始めたのは記者会見の後半だった。
http://www.youtube.com/watch?v=LllgYHWnuwM(2時間余りの動画)
委員長を含む3人委員が「欠格用件」に当たるとの指摘について(0:50~)、
原発再稼働、暫定基準に代える安全基準について、バックフィット(1:02~)
核心的な質問に入ったところで打ち切られそうになるところ、
フリーの田中龍作氏が「ダメですよ」と主張をして
手をあげていた記者全員が1人1問、前から順に尋ねられることになった。
私は、後ろの列にいて、以下のどれかを質問しようと待ちかまえた。
1)取材者だけで一般傍聴をさせないのは何故か?(→2回目から傍聴させる方針を示し、実際に決まった)
2)なぜ、今日からさっそく大飯原発について議論をしないのか?
3)20mSv問題をどうするか
(政府(原子力災害対策本部)は2011年4月19日に
「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」で、
国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109を一つの目安に、
「非常事態収束後の参考レベルの1-20mSv/年を
学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、
今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていく」とした。
「避難」したくてもさせたくても経済的な理由や仕事の事情などで、
住み続けることを余儀なくされている人々がいる政府の方針に対する批判が、昨年以来、続行している)
1)、2)は他紙から問われ、彼らのスタンスが引き出されたので
3)について、「原子力ムラ住民」と激しく批判されてきた3人に問うことにした。
委員たちの本心が出やすいように、あえて「心身」という言葉を入れて質問した。
Q:子どもが20mSv以内の範囲に居住させられている。
この委員会として、安全基準をこれからどうしていくか?
その答えは動画で生の声で聞いていただきたい。
動画1:34~中村委員
動画1:35~更田委員
動画1:36~田中委員長
見直しに向けた段取りが回答としてスラスラと出ればよいと思っていた。
3人に共通していたのは、個人的にどう考えるかという見解止まりだった。
あたかも誰か他に規制する人がいて、
自分たちはいつものご意見番の意識でいる姿勢が垣間見られた。
今後の基準について聞いているのにもかかわらず、
最高責任者である田中委員長の回答も他人事で
これまで福島で自分がやってきた対策についての体験談だった。
今後を大きく左右する強大な権力を持つ「初代原子力規制委員長」の
職責を担ったことを匂わせる「思考」に切り替わっていないように見えた。
マイクはすでに事務局に戻したので、大声で叫んだ。
Q:基準をどう定めますかという質問です。対策ではなく。
(その声はマイクに拾われていないので、自分でメモっておく。)
A:き、基準はこれからだと思うんですよね。
基準はここまではいいとか、ここまでは悪いということではない・・・。
(略)生声を聞いてください。(動画1:36~)
Q:じゃぁ基準は現状維持だということですか?(声がマイクに拾われていない)
A:き、基準、基準、基準は、その20mSvっていうのは、
現存被曝状況にあるということで、
それがいつまでもその状況でいいっていうことではないと。
Q:ではより厳格化されるということで、いいんですね?(声がマイクに拾われていない)
A:厳格化されるって簡単に言いますけれども、
現実に今、福島におかれている状況の中では、まぁ、
実際にできるだけそれを少なくするという努力をするということを、まぁ
多分、行われるということ。これは規制委員会の仕事ではありませんけれども。
できるだけ少なくしていただくようにするということを求めていきたいと思っています。
(~1:41)
斑目・原子力安全委員会との質疑が蘇った。委員たちは
放射能ゴミの基準について「放射線審議会」の仕事だとのスタンスを述べるに留まり、
傍観者であり続けた経緯がある。
参考 http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/info/20110808.pdf
会見終了直後、
「原子力規制委員会設置法」第4条(下記の太字部分)を読み上げて
「原子力規制委員会の仕事です」と指摘した。
==================
原子力規制委員会設置法
(任務)第三条
原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ること(略)を任務とする。
(所掌事務)第四条
1 原子力規制委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
五 放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることに関すること。
2 原子力規制委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告し、及びその勧告に基づいてとった措置について報告を求めることができる。
==================
すると田中委員長の口からも、「放射線審議会」の言葉が出てきた。(動画2:01~)
たしかに、放射線障害防止の技術的基準は、
「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」に基づいて、
文部科学大臣に任命される「放射線審議会」が定める。
しかし、原子力規制委員会は、「放射線障害防止の技術的基準」が不十分だと思えば、
原子力規制委員会設置法に基づいて、「関係行政機関の長に対し、
原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告」できる権限を持つ。
ど真ん中の仕事である。
チェルノブイリでも年間5mSv以下の長期被曝による健康被害が問題になっている。
直ちに文部科学大臣に対し、基準の見直しを勧告すべきだと思う。
なぜか?
この日、定例会、発足式、そして、私の質問の番が回ってくるまでの会見で、
中村委員は「これからは分からないことは分からないと言うことが大事」と述べ、
更田委員は「待つことなく攻めていく(規制をかけていく、の意味だと思われる)」と述べ
田中委員長は「政治的な判断ではなく科学的な判断を行う」と抱負を述べたからだ。
「20mSvは高すぎる」という島崎意見あり(アワプラ白石さんの質問への回答1:50~)、
「私の知識では申し上げられるレベルではない」という更田意見あり、
「いつまでもその状況でいいっていうことではない」と田中委員長も言う。
科学的にはっきり「大丈夫」かどうか「分からない」のであれば、
中村委員に言うように、分からないことは「分からない」と明確にし、
「政治的な判断」で決まった基準を現状維持するのではなく、
安全サイドに立って、予防原則に基づいて、見直しを勧告すべきだ。
それが抱負で述べたことに相応しい「仕事」であり、
環境に未成年をおいておくような「原子力規制」を続けるなら、
それは、これまでの「安全神話」と何ら変わらない。
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